代表とはいっても、まだ正式な国家ではない。外交関係をどこかと正式に結んだわけでもない。
その中で上司と言われても……というのが正直な感想だった。
これは何だ。初めての子どもを持った時の気持ちに似ている。
子どもにとっては毎日が初めてづくしだろうが、親にとっても毎日が親としての初めてづくしなのだ。
「怖いか」
「いや」
「私は怖いよ。昔から隠し事が苦手だったから、この際正直に言った方がいいと思って」
「司令官……」
マスケットを持つ手は、その銃を持つには少しばかり幼く見えた。
これを持たせたのは彼本人の意思だろうか、それとも我々のわがままだろうか。
「お前も正直な気持ちを出せばいい。好きだからこそ、保護ではなく対等な関係になりたいとね」
すべては、しかし、目の前の争いに打ち勝たないと議論することも出来やしない。
「いまさら言えないよ」
「それなら、なおさら頑張らないとな。ここで勝って、お前に言える時間を作ってやれたらいい。百年でも、二百年でも」
そう言ったら、拗ねたように丘の向こうへ見やってしまった。反抗期と言わずして、これを何というだろう。
だが、私でさえも言葉を続けるのがいささか疲れた時には、この大地を眺めるのは、なかなか心惹かれるものがあるのは否定できなかった。
夏をこれから迎える山が遠くに浮かび、雲ははるか遠く遠く。峰から湧き上がるように日光の隙間から斜めに照らされる。
雨が近いかもしれない。戦は乱れるだろうが、暑さを覚ます薬となるか、それとも。
それにしても、いい丘だ。測量すれば、きれいな数値が出てくるに違いない。地形把握はこちらに有利だが絶対数や武器数では比べ物にならない。
だが、百年後も、地形は変わらないだろうことだけは、私にも測れる。どちらの結果になっても、確実に残っているに違いない。
いまだ見えぬ嵐は、今静けさだけをひたひたと走らせていた。
それを、この年端のいかない少年と、誰も頼らない世界を目指す青年との間をさまよう若人は、ただただ前を見ていた。
きっとお前も、これが正しいかはわからないのだ。我々が正しいか、わからないのと同様に。
それでいい。始まりとはそのようなものだ。
我らが若き大陸よ。
未来で、お前が我々を振り返って、あの頃は若かったと少し笑える恵みを、神から与えられんことを。
fin
PR
COMMENT