来年の今日は、20周年なわけで。
弟は確実に仕事仕事仕事なわけで。
何しろまじめな奴だから、律義にそちらに打ち込むわけで。
というわけで、今年は二人だけで存分に祝うことにした。
20周年は、磁器婚式らしい。
正確に言えば、弟と家族から一歩も二歩も踏み込んだ関係になったのは、時間的に微妙なズレがあるが、政治的に……ある意味、お役所的に手続きをするように籍を入れる感じで一緒になったのは今日ということで、思い入れは十分あるわけで。
弟が喜ぶものを贈ろうと考えた。
普通の一般的な人間の夫婦が持つ指輪などは、公の場では身につけられないだろう。
それなら毎日使えるものがいい。
よく誤解されるが、俺様はこう見えても、合理主義者なのだ。
先々代から知っている職人に頼みこんで、代表的な柄であるブルーオニオンのビールジョッキを作ってもらった。当然、蓋つきだ。
取っ手まで磁器で出来ていて、よくもまあこんな精巧なものを窯で焼いて伸縮率を人智で調節できるのか甚だ不思議なほど、スムーズに開け閉めが出来た。
陶芸は好きだ。
窯の温度は、普通の炎よりずっと熱くて、昔はよく立ち寄った。
西洋陶器の最高峰に位置するこの窯元は、生まれはザクセンかもしれないが、ここまで洗練させたのは親父なわけで、錬金術師ら人が創り、屈強な炎が研磨した白い黄金は、今も変わらず輝いている。科学的にはアルミニウムの一種らしい原料は、ただの石なのに、それは奇跡としか言いようがない。
まるでヴェストみたいだぜ。
底に描かれたトレードマークの二本剣を爪で軽く弾いた。限りなく金属に近い密度を誇る陶器は、鉄琴のように響く。
金属並の冷却機能に、セラミックの耐久度と軽さ。これ以上の贈り物もそうそうないだろう。
明日から、ヴェストと毎日キスをしてもらうからな、とジョッキに語りかけて、取っ手に弟の目と同じ色のリボンを付けた。
真っ赤な顔をしたヴェストが、抱えて帰ってきた箱から、特注のまったくデザインは同じだけど、模様の色だけは違うビールジョッキが飛び出すまで、あと1時間のことだったりする。
fin
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COMMENT
大変素敵でした
そして作品完成おめでとうございます。なんというスピード…!!
「今年にこういう形で祝う」というのは、彼ららしいなと感じました。最後の台詞のかわいらしさ、微笑ましいラストも大好きです。
とても幸せな気持ちにさせていただきました。ありがとうございます!