レープクーヘン日目の朝になりました。体力ゲージは50%です。行動値は30%、上司値は75%、軍事力は20%、クーヘン度は60です。本日のフランクフルト証券取引所の株価指数は5,400。前日比+0.2%になっています。1ドルは0.82ユーロから始まってます。ステータス異常は二日酔いです。回復アイテムを選んでください。
1、迎え酒としてビール一杯
2、常備の苦い薬を一服
3、隣の全裸の女性で一発
回復アイテムを使わずともドイツの酔いは覚めた。
目の前では、一糸まとわぬ姿で妙齢の女性が自分の左胸に頬をすりよせて眠っていた。これで驚かない男は単なるロクデナシだ。ドイツは、売春はきちんと健康的かつ衛生的に行われ、過剰労働なく、福利厚生も充実し、売買契約が発生して税金を納めているなら許容できる自国の男性平均レベルの貞操観念よりはいささか古風な男だったのでそりゃもうびっくりした。
たまに疲れているせいか、自分が終了した記憶がある以上の仕事が終わらせてあったりすることはあったものの、ベッドはいつもの自分の寝室の、マホガニーのバッグボードに、白いシーツがいつもぴんと張られている見慣れたものだった。天井だってアイボリーの壁紙と、鉄製のシャンデリアを見間違えないわけがない。つまり、自宅に侵入者?
何より、昨夜ここに寝ていたのは恋人兼兄のプロイセンのはずだ。性別が違う人間が隣にいていいはずはない。
「に、兄さんは……」
「かねはえら、い……君主の中の君主……」
変な寝言を言ってるが、春のアスパラガスのように瑞々しい脚に、恋人兼兄とまったく同じ色の髪、おまけにリンゴを上に乗っけられそうな谷間を作れる乳房。
忙しすぎて、自分に依存する国家(日本に相談したら「ヒロインならぬイゾイン攻略中ですね」と言われた。イゾインとは何だろうか)にかまけてストレスが溜まったせいで、兄に飽き足らず売春婦を連れ込んだのか、自分は。3Pか! 3Pをしたのか?! そんな刺激的なプレイを覚えていないなんて何たる不覚! 兄さんしか見ていなかったということなのだろう。記憶はないが浮気をしてしまったのなら、ともかく兄に謝らないと……。
そして、この女性も一刻も早く帰さなければ。
「んあ……」
「すまないが、昨日の仕事の内容を聞かせてくれ。そして、希望の金額は払うから、お引き取り願いたいのだが」
「ヴェースト、セックスしよ!」
女は目を開けてとんでもないことを言って、覆いかぶさってきた。兄を思わせる赤が溶けたピンクと、自分と似た水色が混ざり合ってる。カラーコンタクト? いやしかし、今まで寝てたのにそんな。あ、でもキス気持ちいい。兄の優しいキスと同じ感じで。それが少しだけ上手くなったというか、柔らかくなったというか、ほんのりメレンゲ菓子のような匂いがし……。
「だあああああ! 離れろ! 俺は、兄さんとしかセックスしたことないし、これからもせん!」
「やっだなー。俺様俺様。お前の大好きなプロイセン様だぜ」
「は?」
「キスとか大体似た感じだと思うけど。第一他人に俺達兄弟が国名話すわけないし、話したって受け入れるかどうか別問題だろう。んでもって、今お前を押し倒してキスしてみたわけだが、腕力的にそんなの一般人にできるか? オラァ」
全裸の女、自称プロイセンは、どや顔でマウントポジションを取っていた。昨日プロイセンを何度も抱いておいて良かったとドイツは心底思った。そうでなかったら、色々大変なことになっていただろう。主に朝の生理現象とか朝の生理現象とか朝どころか昼も夜もそれなりに起こったりする生理現象とか。疲労が溜まっていたのも結果オーライだったかもしれない。
「まあ、性別は女で、仮名はユールヒェンてのもあんけど、別に兄貴って読んでもいいぜ。ほら、これオストからの置き手紙。今はプロイセンじゃねーから、ギルベルトって呼ぶべきか。お前が起きたら見せろって言ってた」
スプリングを生かしてベッドから飛び離れたユールヒェンは、つかつかドイツの仕事机に向かうとレポート用紙を取りだした。手紙と言うにはそっけない便箋だったが、書かれた字は確かに兄の物だった。
『ヴェストへ
同志達が俺様を求めている。必要なものは置いて行くことにした。その方が貴君にも都合が良いだろう。
東ドイツ民主共和国より』
「いたずらか! どんだけ手の混んだいたずらか! それともアメリカが外貨稼ぎのために新手のリアリティーショーでも立ちあげたのか! ドル安への介入断ったいやがらせか!」
「だーかーらー、お前の仕事と性欲処理に必要な俺様はちゃんとここに残っているんだから、問題はねーだろ?」
「せ、せーよく……」
「ヴァギナの方はヴァージンだから、具合は悪くないと思うぜ」
「ヴァ……」
「あいつも馬鹿だよなぁ。家出するほど辛ぇなら、男同士で家族なんて面倒くさい関係に素っ転ばなければよかったのに」
「それを!」
枕元で電子音が鳴った。常に控えている忠実な携帯電話だ。渋々取ると、既に寒気がするほどの陰鬱な泣き声が底から湧いていた。
『ドイツくんドイツくん、お願いだから連れて帰って! お願いぃいいいい!』
『行くぞ、ロシア同志。鍛錬鍛錬鍛錬鍛錬鍛錬鍛錬鍛錬鍛錬鍛錬鍛錬!』
「兄さん!」
回線は切断された。
起きぬけのドイツ。全裸のユールヒェン。そして残された手紙と奇妙な電話。朝の深い霧の中、カイザーヴィルヘルム教会の鐘が、この国に起こった異常事態を知らずに、鳴り始めていた。
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