ええ、その瞬間の興奮は何とも言えませんね。
ある時は、神作画のOPを見たときに、即座に毎週の予約録画と即座にDVD-Rを買いにヤマダへ走るんですよ。ああ、別にビックでもコジマでもサクラでもK’sでもいいんですが、たまたま我が家から近いので。
もちろん、本編が幾分か進んでから、その瞬間が訪れることもありますね。やはり、ある程度品質が伴えば、最初の数回はチェックしますから。そこで製作者の本気が爆発するわけですよ、はい。
動画でなくても話は同じ。週刊だろうと、月刊だろうと第一話で、どーん!とハートをわしづかみにするものもあれば、途中の展開で魅せるものもあるわけでして。
そうですね。ふっとある日気づいちゃたんですよね。
目が赤くて、髪が白くて、肌はもっと白くて、骨と皮に近い身体なんだけど、どこか母性を湛えた雰囲気を宿していて、眼帯をつけたひと……なんて二次元にしかいないって思いこんでましたから、やはり二千年も生きてみるものですね。
日本の家で寝転がるのは落ち着く。かすかに香る薬の匂い、食べモノの匂い。日本が作る芋料理は、塩気があるものも、甘いものもどれも色々な味がして好きだ。肉じゃがも大学芋も美味い。
だけど、せっかく遊びに来た俺様を放っておいて、日本はずっとパソコンに向かっている。手元にはペンの形の機械。器用にプラスチック板を動いて、日本が丸をかけば画面に丸が、三角を描けば三角が画面に出てくるようだ。ヴェストが普段、絵を描くことがないのに妙に興奮した調子ですごいとか新しいのを購入しようか迷うとカタログを集めていたのを思い出す。
「なあ、これいつ脱げばいいんだ」
「あと少しです! あと6時間! がんばれ私、負けるな私。エイエイ・オー!!」
テンションがとても高いまま、俺は日本の脇で足を崩しながら寝転がっている。この体勢は別にいいのだが、問題は服装だ。
白いシャツに、赤いリボンタイに、黒い皮靴、白いロングソックス。まあここまではいい、問題は一番注目を集めるべきなのは青いつなぎのプリーツスカートを履いているということ。
先に言っておくが最後の砦ということで、パンツはいつものトランクスだ。
「日本。俺様、二人楽しくないぜー」
モデムの駆動音と、日本の一人修正箇所を口に出している言葉だけが部屋に満ちる。つまんないつまんないつまんねー!!借りた漫画も、DVDも飽きた。
「それじゃあ、雑巾でも絞ってもらいましょうかね」
「掃除か?」
「いや、ポージングの一環です」
理解できない。昔から文化圏の大きく異なる国ではあったが、ここ数年はますます加速した気がする。
初めて会った頃の日本は、そりゃあもうメッサーシュミットのように可愛かった。当時はメッサーシュミットはなかったが、小鳥のように格好いい俺とはなかなか良い組み合わせだったと思う。
開国後、イギリスやフランスら意地の悪い奴らに揉まれた日本は、海外訪問で俺の所にたどり着いた頃は「ほうほうのてい」で(当時の日本本人が使った言い回しだ)、目の下にクマが出来ていた。気が張っているのはありありとわかったので、あえて俺は高笑いした。
「ハハハハ! よく来たな日本! どうだ俺の家は!」
「驚きました。アメリカさんのように離れていて大きな家ならまだしも、イギリスやフランスさんと近接しておきながら新しく興ったとは思えないほど進んでいます」
「よくわかっているな。嬉しいぞ。すべては親父のおかげだ。ここに親父について書いた本があるからやるよ」
「これはこれは結構なものを」
よし、これで親父の偉大さをまた一国に伝えることができた、と俺は満足した。残念ながら、その後日本はこの本をロシアに燃やされてしまったと聞いた。まあ、そういうこともあるだろう。親父ファン一人楽しすぎるぜ。
同時に日本が腰に刀を下げているのを見た。金や絹刺繍で、鞘は飾られていたが、柄はシンプルなもの。実用もいとわない武器であることがわかった。
「俺の剣を用意しろ」
「はっ」
「プロイセンさん」
「その武器は飾りじゃないだろ。お前の実力を知りたい。仲良くするかを決めるのは、それからだ」
出窓から行儀悪く直接庭に出た俺に、部下が愛用の大剣を馳せ参じた。現代でも訓練や、弟を鍛えるために使っている現役だ。銘こそ、無名の職人が作ったものではあるが殺傷能力は一級品だった。切れ味というより、重みを持って敵を打破していく破壊力に富む。武器そのものの重量はかなりのものであるのに、持ちやすさ、動かしやすさが俺が気に入っている理由だった。
そういうマナーなのかと勘違いした日本も、うんしょと声を出して出窓から足をかけて外に出た。期待はずれに終わりそうだと、俺は思ったがいやはやどっこい。
「試合形式について私は存じないのですが」
「お前は、戦うときにいちいちやり方を敵と話し合うのか」
「……いいえ。では、参ります」
鞘に入れっぱなしの剣対、幅広で防御も兼ねることができる大剣。勝負あったなと始める前から思いきや、瞬きする前に日本の剣が喉に迫った。とっさに根元の塚で弾く。火花。
畜生。鉄部分じゃねーから、欠けちまった! 何だよ大人しい顔してやるじゃんこいつ。面白い奴だ。実に面白い。
「私の負けです」
「え」
「初太刀が入らなければ私の負けです。確実に」
その後、再び交渉の席に着いた日本は、俺が興味を示した独特の剣術について訥々と語った。何でも、鞘に入った状態での方が速く攻撃できるという「居合」は、その最初が重要らしい。重い剣を軽々振り回す俺を見て、長期戦になれば体力のある俺の方が有利とみた日本は先手必勝とばかりの作戦に出た。しかし、それは防がれたと日本は言った。ならば勝てる見込みはない。
嘘だろう。根元の塚に日本の剣先が辿りついた時に、ほんの少し力を入れれば俺の指を切り落とせていた。国同士で再生可能な相手なだけに遠慮はいらない。
俺はその判断力を買った。
部下にありったけの学者や技術者や資料を集めるように命じたが、日本はあえて出来るだけ自力でやりたいので、と断り、一部の人材と資料のいくばくかを手に帰って行った。
あの深遠なる眼差しと、この飲み残したまま放置されたフランスのワインのような中途半端な色のジャージの背中は、とてもじゃないが同じ国とは思えない。WW2のときは、まだ面影があったのに、俺が閉じ込められていた40年間に一体何があったんだ!
いや、俺の格好も相当だけどな。
悔しいからいつもよりガニ股で、冷蔵庫に菓子を取りに行く。タダ飯なら食う方が正解だ。俺が外に出ることを好まないヴェストも日本の家は比較的抵抗なく送り出してくれる。せいぜいお兄様はお前の望みどおり太って帰って行きますよ。
歩き出した俺に、日本が機械のペンを動かす音を止めずに言った。
「あなたの姿を久しぶりに見たとき。そう、20世紀も終盤でしたっけ。ドイツさんはなかなかあなたを外に出そうとしませんでしたから」
振りかえると画面上には、本当にこれは俺なんですかと言いたくなる、カラーリングは一緒なのに目の大きさとか、首の細さとか、そもそも俺にはおっぱいなんか付いていないと根本が絶対違うキャラクターが、股間を抑えながら足をひろげていた。しかも、股間おっぱいついている性別ではありえなくらい膨らんでいるし。お前は、男なのか女なのか。やられたいのか、やられたくないのか、どっちなんだ、はっきりしろ。
「そのとき、キタ――!て降って来たんですよ」
「来た?」
世界トップクラスの経済体力の腕力は意外にある。国未満の俺と比べれば体格の差などどうもない。ああ、そういえばヴェストも、日本は見かけによらず体術の達人だから勉強になるとか言ってたな。
「ドイツさんにプレゼント買いたいんでしょう? もう一つボタンを外してくれたら、ボーナスをサービスするでゲイツ」
「一つも何も普通に脱ぐっつーの」
「それじゃ意味ないんです!脱ぎかけがいいんですってば!!」
「わっかんねーな」
「ふたなりふたなり!ハァハァ!」
「だっから、おっぱいはねぇっての!!」
ある時は、スカートをちょっとだけ上げてください、そうちょぅっと……と言いながら、俺に上げさせて眺めていた。
またある時は、延々棒状の氷菓子を舐めさせられた。ちなみに味は、日本で有名な白い某乳酸菌飲料だったらしい。割と美味かった。
またまたある時は、タンクトップの上からエプロンを着せられた。日本曰く、裸エプロンより日常感があって萌えるらしい。
くぅっ、セクハラも耐えてやるぜ。ヴェストのためなら! まあ、こうやってバイトは、変わった格好をさせられたり、ポーズつけたり、ちょっと脱がせたりするだけで、それ以上はないんだけどな。ある意味、俺の一人楽しいかどうか微妙すぎる状態だ。
拝啓、神様親父様。そんなわけで世の中はまだまだ広いです。特に東洋の神秘は果てしないです。俺様は当分そちらには行けそうもありません。
fin
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COMMENT
萌えの宝庫です
あ、あの、これだけたくさんネタがあったら一つくらい紙に起こしてみてもよろしいです…か…!?(ボタボタ(ついに抑えきれなかったらしい←
無題
あー、本出すと多分、今以上に時間なくなりそうなんですよね……。
もともと、書くのはそこそこ早いですが、本が作れるほど大量にかけるタイプじゃないですし。