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Pannotia

ヘタリア好きが懲りずに作ったブログ。元Pangea。今回も超大陸から名前をいただきました。 CPは独普・米英米・独伊独・西ロマ・典芬・海拉・英日などなど。NLは何でも。にょたも大好き。史実ネタ時事ネタねつ造たくさん。一部R18あります。 その他作品として、デュラララ!!(NL中心)とサマウォあり。

   

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錆 (英+現代史実)


 リアル現役人物がねつ造されています。

 ぶっちゃけると英の上司さん。

 それでもよろしければ。


錆び

 秋に咲くバラと春に咲くバラの違いは、色には表れない。
 強いて挙げるなら、茎が違う。
 春のバラは寒風を耐えるせいか茎が太い。暖かくなるにつれて増える雨のせいか瑞々しさを十二分に行き渡せられる。
 秋のバラは、夏のじりじりした乾きを経るせいか、最小限の水を届かせるために茎が細い。効率を追求した理想的な形だ。

 細くなった腕を見た俺の感想は、その秋のバラの茎だった。
 恩人と言うべきか、恐ろしい校長と言うべきか判断には迷うが、少なくともこの腕が必死に俺を支えることがなければ、今の俺はなかっただろう。
 EUに組み込まれた貧乏国として、またフランスの使い走りをされていたに違いない。中世と違うのは、それにクラウツや野蛮な南米かぶれや、パスタ兄弟まで付け加えられているということだ。
 自邸の庭から作ってきたブーケは、彼女の娘の手で活けられた。ひなぎくも当然入っている。

 20世紀最強の男は諸説あるが、20世紀最強の女性は、二人とも俺の上司だということに異論はないと思う。
 一人はすでに引退したが、もう一人はこうして俺と未だに仕事をしている。
 同時期に俺を率いていた二人はライバルとも同志とも称され、タブロイドでは不仲説も握手説も報道された。女二人が集まれば、例えそれは姉妹であっても親子であってもライバルにはなりうるので、それはおかしくとも何ともない。
 確かに、俺も両方から呼ばれたときにどちらに行くか、いつも唸るしかなかった。レディファーストと言われても、どちらも淑女だ。当時困っていた俺を、フランスやアメリカが、尻に敷かれてやんのとしょっちゅうからかっていたっけ。

 リモコンをひねってスライスを打った俺に対して、意外にも上司は俊敏にボレーで返してきた。画面ではテニスの対戦が繰り広げられている。CGで作られた球が左右に動き、今度は俺はスピンをかけた。
 最近、アメリカもハマっている日本が開発したゲームは、老若男女楽しめるヒット商品で、何でも孫である王子の恋人からのプレゼントに、すっかり上司はハマったらしい。確かに運動不足には持ってこいだろう。
 もっとも、犬の散歩やら仕事やらで宮殿も外も行ったり来たりの彼女の休む時間は意外と少ないものだけど。80代やべぇ、80代女性半端ねぇと齢千歳を超える俺が舌を巻くのは何とも奇妙な関係だ。様々な国と会う機会はあるが、俺ほど今の上司と長く付き合っている国もいないだろう。在位半世紀以上は伊達じゃない。
 どうだったか様子を尋ねられた。一挙手一投足をパパラッチに見張られている上司は、政治的実権はなくとも国民の、いや世界中の注目の的だ。
 保守党の伝説的首相の見舞いに行ってしまえば、現在の労働党首相との軋轢あり?!と明日には主要紙のすべてが載せることだろう。
 そんなとき、頼まれるのが俺の役割だった。

「俺のことを、忘れてました」

 病死は多かった。暗殺も多かった。獄死も、首切りも。ありとあらゆる残酷な終りを俺は見てきた。
 だけど、これほどまでに無力を感じたものは初めてだった。
 あの時ああすれば、この時こう動いていたら、そのような後悔さえもさせてくれない道だ。政治も、経済も、人間同士の付き合いさえも関係がない。彼女一人の世界への旅立ち。
 千年近く前のことでも記憶がある俺には決して手の届かない世界だ。だから、手を加えることも動かすこともできない。届かないものには元来憧れる性質だ。領土に憧れて海に出たし、家族に憧れて大陸の子どもを弟にした。
 老いながら子どもに還っていくというその現象が、もし俺にも起こるとしたら、俺は弱い惨めなチビに戻ってしまうのだろうか。それとも、そうなった俺を世話してくれる誰かが今の知り合いの中でいてくれるだろうか。 
 後者は、理想的かつ合理的なしおれ方をした花を、誰かが加工して、元木に肥料をやって接ぎ木をしてくれることに似ている気がした。そうして、生まれる次世代の花は、姿かたちは変われど、やはり美しいことには変わりがない。

 タイブレークを取られて俺は負けた。やはり、この上司は歴代の中でも強い。色々な意味で。
 陛下、と一声かけて膝を着く。一世紀近くを緊張感に耐えている指に口づけた。
 それでもこの頑丈さは、春のバラと似ていた。

 まだまだ、彼女が旅に出ることはなさそうだ。いや、正確にいえば出られないのかもしれない。身内の問題が、テロの火種と同じくらいに燻っている周囲への警戒心が保たせているのか。その鋭い感覚は、彼女の血統の祖国が海の向こうの筋肉質な国であることと無縁ではあるまい。強さをこちらにもたらしてくれたことは、中華街における点心のごとく、甘んじて受け入れよう。
 それは俺にとっては喜ぶべきことだろうから。

安寧を祈って。
 もちろん、これは彼女のためではない、あくまで俺のためではあるんだが。




fin
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