こちらのアンソロに参加させていただいています。伊独です。投稿物は、大人向けにしました。
総勢40人以上と豪華です。
ちょっとだけ抜粋
装飾豊富な欄干や窓細工を見にきた観光客とそれを当てにした土産物屋が乗っている白い屋根付きのリアルト橋は、既に水面の紫が反射されて、そろそろフラッシュが目立ち始める時間だった。大戦が終わってから、観光客のほとんどは余裕のあるアメリカ人で、彼らは写真が大好きだ。
目抜き通りならぬ目抜き運河のカナル・グランデを抜けて、防波堤の手前を曲がり、いくつかの同業者とすれ違い。
外れ客だなと符号で挨拶されて、そうでもないよと投げキッスで返す。あちらの客は女性二人で、きゃっと声を上げた。悪い気分はしない。
もっとも人気のある小橋が見える袋小路に舟を止めた。錨はないので、揺れるがまま。石壁と波に反射した青い夕が彼らを照らした。
「……昔、兄とここに来たことがある」
地元民はまず触らない水にそっと客は指先を入れた。この季節なら、指先のぬくもりもすぐに水は奪ってしまうだろうにと舟守は思った。
ひたりと掌を水面に舐めさせるように広げた。
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