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Pannotia

ヘタリア好きが懲りずに作ったブログ。元Pangea。今回も超大陸から名前をいただきました。 CPは独普・米英米・独伊独・西ロマ・典芬・海拉・英日などなど。NLは何でも。にょたも大好き。史実ネタ時事ネタねつ造たくさん。一部R18あります。 その他作品として、デュラララ!!(NL中心)とサマウォあり。

   

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鬼喰い (仏加)


 微妙にグロ。

 
 ワインを好む人が慌てて、コニャックの瓶を開けて飲みほした。よい酒をあおる人でないから正直驚いた。片手は、ひろげられて皿の上で、待ての合図を示している。爪がそりかえるみたいで緊張が五方に広がっていた。
 肉片をゆっくりフランスは飲みこんだ。
 
「食うなカナダ」
 
 次の日、その肉が生産された地域が、土壌汚染を受けていることが報道された。
 
 
 
 
 
 
 ニューヨークのフラットに行くことはまずないイギリスではあったが、フィラデルフィア校外にあるニューイングランドの香りが残るこの一軒家はそこそこ訪れる。彼の家では茂りにくい、日の光と和やかなぬくもりを好む植物を庭にて観察するのが楽しいらしい。一年の半分以上を雪で覆われるカナダには、その気持ちは少しわかった。春や秋が長いのは、素敵なことだ。もちろん、長い冬ものんびり家の中にいられるから素敵なことではあるのだけれど。
 アメリカと並んで歩けば、イギリスもカナダの存在に気づけるらしく、おうと鷹揚に挨拶をした。手には紅茶。金属製のテーブルにクロスをかけた上には、刺繍の道具が並んでいる。待ち針まで礼儀正しく、赤や青や緑のビーズに縁どられて整列していた。ここまでされちゃ、バスケのリングやプールを視界に入れなければその一角はイングリッシュガーデンと呼ばざるを得ない。
 
「こんにちは、イギリスさん」
 盛られたネズミ色のスコーンの隣に、土産と言うか保険代わりに持ってきたメイプルシロップの瓶を置く。アメリカが珍しく安堵のため息を吐いた。助けにきたよ、兄弟――と言いたいところだけれど、ここに来た主な理由はそれじゃない。
 イギリスに席を勧められたので、大人しく座った。風通りの良い庭の景色が少し低い視点になり、花々がより近く感じられる。もそもそと、添えられたクロテッドクリームを塗りたくり、持参のシロップ味しかしないくらいに並々かけてスコーンを食べ始めた。どことなく、カビ臭いけれど気にしないことにした。
「話って何だ」
 フランスのことを世界でいちばん知っているのは、自分でなくイギリスだということをカナダはよく知っていた。酸いも甘いも苦味も誰よりも知っている。自分には見せない顔があるのも知っている。それは少しさみしいことではあるけど。
 
 
「あいつ、昔、上司の毒見役やってたんだよ」
 一通り話したカナダに対して、イギリスは新しい紅茶を一口飲んだ後、あっけないほどあっさり答えてくれた。
 アメリカも同席している中でだ。珍しくアメリカが驚いている。そうだろう。カナダだって驚いた。
 もともと、イギリスは自分たち兄弟が知っている以前の歴史について話すのを好まない。自分たちがどういうことをしてきたか、されたか。昔は、自分たちを子どもだと見くびっているからだと少々不満だったが、どうも最近は違うらしいと思いつつある。
 しかし、それでも比較的表に出しにくい事柄でもあっけなく表出させるイギリスだとしても、それは極めて何気なく飛び出した衝撃的な内容だった。
 国である自分たちは、国家の崩壊でもない限り、死とそれをさしてしまえばいいかはカナダにはわからなかったが、ともかくこの世からいなくなることはない。正確に言えば、国家そのものがなくなっていても、文化の名残や住民の意識次第では残ることさえ可能だ。
 だから、毒程度では死なない。死ぬわけがない。
 そこに注目した上司たちがいた。近世まではもっともメジャーな暗殺方法を、「リスク」なく防げる手段として。
「俺たちは死なないとは言っても、それなりに呼吸困難になったり、腹下したりはする。ああ、しばらく目が見えなかったときもあったな。あんときは笑っちまったよ。だって、笑ってやるしかなかったから」
 
 しゃがみこんだ小さな少年。伸ばした髪は荒れて、手の甲はけばだっている。足先が震える。背中に力が入っているとは思えない。指先で何かをつかもうとする。立つためだろうか、しがみ付こうとしているのか。
 誰か、誰か助けてあげて。
 助けようとする人も、柱でさえも探すこともできずに指先が何もない場所を泳ぐ。
 声は聞こえない。空気が流れる不自然な音しか聞こえない。ゴミが詰まった笛を吹くような、冬風が嘆いているような。
 
「最初は奴隷を使っていたが、遅効性の毒を盛られたらわからない。だから、あいつはそういうものが入っていたら、即座に食べるのを止められるように舌を磨いた」
 
 カナダは、幼いフランスを知っているわけではない。でも、自分の家に来た時は、小さい頃も今でも朝必ずフランスは髪をとかしてくれた。さらさらだと褒めて、唇を寄せて。
 栄養をつくものを食っている証拠だ、と嬉しそうに言う。鏡越しの目は、他の場所で見る時より少し幼く感じなくもない。
 それが、少年の伏せたまつげの下に重なった。
 
「イギリスさんも?」
「いや、毒殺は俺のところでもメジャーだったが、見分ける才能が皆無だった。上司の方が諦めたよ」
「味オンチもたまには役に立ったわけだね」
「言うなバカぁ!」
 イギリスは持っていたティースプーンをアメリカに投げたが、運動神経は妙に発達しているカナダの兄弟は、簡単にその攻撃を回避した。アメリカの発言は空気を読んでいないかのようだが、真実を知ってしまったカナダの心情を解きほぐす効果はあった。それを狙ったかどうかは、アメリカ以外誰にもわからないけれど。
 
 
 フランスのアパルトマンにカナダが訪ねるのは、その逆と異なり頻度は少なかった。飛行機に乗り遅れることの多いカナダは、国際会議などのことがない限り、地続きでない海の向こうには出ようとしないからだ。
 ドアを開けたフランスにカナダは大きな包みを渡して、フランスがそれをリビングで開けている間、ソファに座ってすぐに出されたカフェオレを飲みながら眺めていた。
 保護区域で調査用に得られた食材ばかりだ。安全はお墨付き。もちろん、ラベルには書いてないけれど、品質はフランスなら口にせずともわかるだろう。
 案の定、鼻歌を鳴らしながら台所に持って行った。いい素材が手に入ったときの彼の習慣だ。
 
 どういう調理法がいいかもフランスはカナダには聞かない。すべてはお任せ。信頼と甘えと確実性に満ちた料理は、待っていればやってくる。
 
 カナダは、何もフランスにこれからも言うことはないし、これだけの行為であれこれ聞いた事は知られないだろう。
 でも、今日はよく自分が口を開けて、フォークを入れられるのを、し返してみようかとぼんやり思った。そのときフランスがどんな反応をするのか、予想がつかなくてとりとめもなくバージョンを考えながら、声を出さずに笑った。
 
 窓の外からは、ショッキングピンクや蛍光たちが、川に散布されていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
fin
 
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