既刊の個人誌の情報です。
以前参加した、ゲルマン兄弟アンソロ・
「鉄十字の兄弟」にて掲載された作品を、主催者様の許可の上、加筆修正したものに、描き下ろし連作2編+オマケを加えました。(該当アンソロは既に完売済)
「ツァラトゥストラはかく謀りき」
性的・暴力表現のためR18とさせていただきます。
カップリングは独普+露普(露⇒普)となっております。
素敵表紙を、
100000000の殿村様に描いていただきました!もう表紙だけでいいような気がします。
<あらすじ>
1972年、オリンピックに湧くミュンヘン。そこで、ドイツはロシアに奪われた兄を奪還する計画を決行する。
変わり果てた兄を抱きながら、彼の脳裏に去来する過去。そして、兄・プロイセンの真実はどこに……。
併録
・
ソユーズ
ロシアは窓を見ない。そこには地球しかないから。
地上と隔たれた空間で、人間とは異なる知性体である彼も、ひまわりと兔の夢を見られるのか?
現れた三人のプロイセン。未来と過去が交差するチェスの一戦。
はたして、彼らの行方は――
・彼を彼たらしめる基質(イヴ)
プロイセンの頸には裂け目がある。それは、穴と言うには浅すぎて、傷と呼ぶには深すぎる。
手術室で繰り広げられる摘出という名の交歓に、彼は何を見るのか……。
Comin City Spark5 東京ビックサイト 東1-H60b Turn Blue様にて委託予定です。(A5 400円)
めでたく完売しました!ありがとうございます!!
続きからサンプル文になります。
つい先日も、水泳でアメリカのところの選手が七個の金メダルを獲得し、プールは怒涛の拍手と歓声に包まれていた。当分は抜かれることのない記録だろう。
ドルが弾け、上司の盗聴スキャンダルが露呈したアメリカは、選挙を控えて明るいニュースに流れを持って行こうと、プレッツェルを頬張りながら計算している。圧倒的優位と思われた戦局は、華奢なベトナムが自らの全てを賭して、彼のブーツを沼よりも深い水田の泥で汚しているからだ。それでも疲労をおくびにも出さない瞳で、ハンバーガーはないのかと聞かれても、ないものはない。少なくともニューヨークで売られているプレッツェルより、本場の味は比べ物にならないというのに。
メダルの数ではロシアが優勢。統一してれば、自分たちがトップだろうにいい気なものだ。しかし、結果が良いほうが祝賀モードの雰囲気であるはずだから作戦は決行しやすくなる。
大会は至極盛り上がっていた。名前だけが気に入らないが。
平和の祭典だと。そんなものはただの欺瞞だ。自分の中では平和なんてものは、もうずっと存在していない。
プロイセン。いや、兄さん。
人類が月に行く時代になったよ。だけど、たかだか数メートルの壁を俺たちは越えられない。
(「ツァラトゥストラはかく謀りき」より、抜粋)
磁石張りのルークを進めたプロイセン君は、僕のビショップをはじきとばした。僧帽は可哀そうにゆっくりと等速直線運動でぼくの耳脇を通り過ぎる。音はない。
「お前、昔より下手くそになったんじゃね?」
「そうかな」
「前なら俺になんざ、百手も行かずにチェックメイトかけてたじゃん」
遊び、という感覚で彼とチェスをしたのは随分昔になる。彼が方々から、まだ目を付けられていなかった頃。
昔のクルーの置き土産だろうチェスセットを掘り出したプロイセン君曰く、暇つぶしくらいにはなるだろう、とのことだった。
ぼくのまわりでは、彼はハンガリーの次に強くて、なかなか面白い手を打ってくれた。そして、彼の強さには、とある法則があった。
「今回は、何をかけようか」
「んー、そうだな。昼飯に熱々のブルストを出すとか」
「そんなサービス、ロシアの宇宙食にはないよー」
「あ、お前がこないだエストニアから分捕った蜂蜜ビール」
「あれは、もらったんだってば。それに、炭酸ガスが入った液体をこんなところまで持ってこれると思う?」
(「ソユーズ」より、抜粋)
「以上で、兄さんの手術のアプローチを行うことにした」
やたら格好いいウサギやリスが手術台に横たわったり、白衣を着ていたりするアニメーションが終わった。空っぽになったスクリーンのきまりの悪さをごまかすように、ヴェストは電気のスイッチを点けた。即席医者の眼鏡の隅が反射する。
俺はあくびを一回して、背中を伸ばした。このあくびで説明の九割は忘れたぜ。
何度か同じことをヴェストは説明してくれたが、どうも形式ばって意味プップクプーだったので、最終手段として、簡単なアニメーションフィルムになった。ちょっと俺様好みのキャラクターが多く、あくびはしたものの辛うじて寝ることはなかった。試みは成功だろう。
ちなみにこのアニメーションは、後でスイスが持って帰った。リヒテンシュタインにあげるらしい。
こういう説明を聞くと、手術する場所が痒くなるもんだ。ぼりぼり掻きながらヴェストに向いた。
「まあ、せいぜい優しくお願いしますよ。ドクトル・ルートヴィヒ」
IDカードに『ドイツ連邦共和国』と表示するわけにもいかない弟の仮の身分と名を呼んで頬杖を突く。ちょっぴり手が冷たくて、気持ちが良かった。
(「彼を彼たらしめる基質」より、抜粋)
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