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Pannotia

ヘタリア好きが懲りずに作ったブログ。元Pangea。今回も超大陸から名前をいただきました。 CPは独普・米英米・独伊独・西ロマ・典芬・海拉・英日などなど。NLは何でも。にょたも大好き。史実ネタ時事ネタねつ造たくさん。一部R18あります。 その他作品として、デュラララ!!(NL中心)とサマウォあり。

   

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世界の終り、ピクニック、不確かな壁 (ガリ男+女普)




 ガリ男&女普というわけで、思いっきり性別変換です。

 ラブではないですけど、苦手な人はブラウザバック。


 「お前」は本当は高い壁に囲まれた小さな街の中に、一人電球のような膝を抱えて座っている。
 場所は、スプリングが飛び出た周りに灰色の小汚い羽毛ばかりが散っているベッドでもいいし、黴と埃だらけのコンクリートでところどころぬめっている床でもいい。
 何度かお前の住居に入ったことがある。灰色の空によく似た壁紙はひび割れていて、一部がはがれていた。石炭ストーブの煤がうっすら浮いている。もうずっと、炎は踊っていない。
 髪だってずっととかしていない。その頭にも、煤が積もっているかもしれない。
 お湯が出にくいというだけで、石鹸は貰えている。その気になれば、木綿のワンピースぐらいは着られる。
 だけど、お前は必要最低限の仕事を終わらせてしまえば、ひたすら窓の外を睨みつけて、一日を終える。はるか遠くのかしましい獲物のおしゃべりをも聞き逃すまいと決心しているかのように、身じろぎ一つしない。

 お前の弟がその光景を見たら、女性が腰を冷やすなんてと即効カシミアの毛布で惜しげもなくくるくる包んでしまうだろうが、俺はお前の弟じゃないのでそんなことはしてやらない。だって、ガキが産めるわけでもないし。

 だけど、今現在、俺はお前とピクニックに来ているのだ。そのくらいの娯楽は、多分許されてもいい。
 ピクニックには、キャベツのマリネサラダが必要だ。サワークリームのドレッシングがよく合う。ジャガイモ入りの生地を上げたランゴシュ。お前は揚げたてが好きだったけど、今日は流石に勘弁してくれ。屋外じゃ、揚げたては無理な相談だ。
 代わりにって言っては何だけど、豚の血が入ったサラミと、トカイの霜が濃縮させたこぶしを握り締めてしまうほど甘いワインも付けてやろう。焼いたフォアグラだってある。フランスみたいな気取ったソースより、その辺で拾って来たような味が好きなお前に合わせて、岩塩だけ添えてやった。
 お前は、そういうもろもろが入ったバスケットを持ってればいい。身一つでいい。靴だっていらない。俺が抱いて食わせてやろう。

 最近、それはひどく贅沢な嗜好品だから、お前はとんと酒を飲まなくなってしまっていて、ビールならともかくワインは回りやすいだろう。甘党必殺のワインなら、飲み口は甘露なだけになおさら。
 そうして、お前はうとうとと舟を漕ぎ始める。唇の端に葡萄の薫りを残したまま。

 お前の目立つ髪の毛は、俺の古い暖炉色の民族衣装の布で隠してしまって、そうして顔を俺の背にうずめてしまえばいい。
 もう、お前は戦っていた頃と違って、多少揺り動かしても起きなくなった。少なくとも俺相手では。眠れ鬼っ子よ。
 ああ、軽い。何て軽いんだ。

 ジプシーの老婆が、魂の重さはそれなりに重いと言っていたものだけど、もう魂が抜けてしまっているのかもしれない。彼女の薬は、苦いがよく効く。ワインに隠した効能は、はるか昔から迫害された民族を守ってきたのだ。そうしたものを、ジプシーの娘たちは、自分に甘えてくる支配階層の男どもに笑いかけながら盛ったのだろう。しな垂れかかって、はだけた胸元には、踊り用ではあるが一族に伝わる短剣があることも知らない彼らは、文字通り天国に連れていかれてしまうのだ。
 そんな女たちと対極にあるような、でも、敵意の大きさだけは変わらない胸もすっかり痩せてしまっていて、思ったより意識もしなかった。太ももなんて鷲掴みに近いというのに。
 温泉でむき出しにして、わしわし洗ったとしても欲情しない自信がある。だって、お前は、こんなところにいないことになっているから。

 長いスカート。伸ばし切りになってしまった髪の毛。軽い身体。足の爪はひび割れている。
 これはお前じゃない。
 太ももより少しだけ根元で、少しだけはまとまっている肉塊まで、両手を伸ばそうと思えないくらいには、こいつは色々な物を置いてきてしまっていた。

「ハンガリー」
「何だ」
「降ろしてくれ、戻らないと」
「殴りつけて連れて来ないだけありがたいと思え」

 これは、プロイセンという国なんかじゃないから、こうやって国境の先へ超えたって、咎められたりしないんだ。そんな亡国、もうどこにもないんだもの。
 しかし、薬があんまり効いていないなんて。原始人かこいつ。

「降ろせよ。降ろせ」

 それとも、色々盛られてもう効かなくなっているのか。

「俺たちは、ピクニックに来ているんだ。ただ、それだけ。それだけだろう」

 首筋を噛まれた。何ともまあ、色気のない勲章だ。
 だけど、もう近い先、この女が実態を取り戻してしまったら、思い出すたびに今の掌に伝わる肉感や、背中に当たる重みも、永遠に彼女の弟には言えやしない。言えやしないんだ。

 らしくなく、泣き始めた負い子の振動が伝わらないように、口笛を吹いた。嘘泣きか、変わってしまっているから流せる涙かどうかってことより、今日がピクニック日和だってことの方が重要だ。

 目をつぶっても泣き声を上げてもわかるだろう。ほら、西風のにおいがする。







 了 

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