『昔イギリスは、女の子はお砂糖とスパイスで出来ていると言ったけれど、それなら僕たちは何で出来ているんだろう。ケーキ? いやいや。マシュマロ? そんなの嫌だよ。きっと大きなバーガーと、粒のタップリ入ったマスタードと、添えられたぴかぴかのフォークで出来ているに違いない。きっとそうに違いないね。でも、やっぱりお菓子は必要だよ、カナダ』
そんなことを話しながら、黒いマントをつけたアメリカは大きなブーツを高らかに上げながら、夜道を歩いていた。灯りのない森の道は、絵本で見た兄妹が迷った暗い森に似ていて、僕は少し怖かったものだけど。
目的地はご近所の別荘の方で、大した距離ではないけれど、僕たちは目印になる小石もパンくずも落としていない。帰り道、道がなくなっていたらどうしよう。お化けならそんないたずらをしたっておかしくない。
アメリカは相変わらず食べ物の話ばかりしているし、ああもう嫌だ。お菓子なんていらないから、もう帰りたい。
巨大なケーキや、アイスクリームの話がつきて、とうとうわが保護者の悲惨な菓子の話も終わってしまった頃、アメリカも黙ってしまった。
遠くで梟の声がする。誰?誰?と聞かれているようだ。
『カナダも何か話してよ』
『無理らよ。歩くだけで精一杯なもん。この衣装歩きにくいし、付けキバがジャマにゃんら』
『ぶー』
尖らせた口先が、ふっと淡く光った。
『今、何か光っらよね』『そそそそそんなわけ』
今度は僕の毛先が光った。
『『わ、わわぁああああ!!』』
僕らは走った。手をつないで走った。やっと、北国風のログハウスが見えてきて、そこの住民が玄関に立っていたので僕たちは飛び込んだ。イギリスがいないのをいいことに、わんわん泣いた。
『サ、サルミアッキ舐める?』
『……そでは、やんめだほーが』
『あ。ども……なるほどねぇ、君たちには見えないわけか』
片方の人が、僕たちから見て何もいない方にぺこりと頭を下げたのを、ぼんやりとした視界越しに見えたのを覚えている。泣きつかれてそのまま僕たちは寝てしまったからあくまでぼんやりと。
「ん? あれか。ちょっと友だちに用心棒を頼んどいたんだ」
紅茶片手にかつての保護者が言った。今や、僕たちの方が背の高くなってしまったが、相変わらず兄貴面の紳士である。
彼が僕を認識しているのは、本日は隣にアメリカがいるためだ。むすーと、スタバのコーヒーフラペチーノをすすっている。
「そんなのいるわけないよ」と、もごもごしながら何とか言っているのがわかった。伊達に付き合いは長くない。
ふふと思わず笑みがこぼれる。
保護者に、隣人に、見えにくいけど近くにいる存在に。結構僕たちってかわいがられてたんだなぁ、と。
ま、今もあんまり変わらないかもしれないけどね。
そんなことを考えていたら、アメリカと目が合って思いっきり頬を膨らませられた。
まったく、君も相変わらずだよ兄弟。
(FIN)
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