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Pannotia

ヘタリア好きが懲りずに作ったブログ。元Pangea。今回も超大陸から名前をいただきました。 CPは独普・米英米・独伊独・西ロマ・典芬・海拉・英日などなど。NLは何でも。にょたも大好き。史実ネタ時事ネタねつ造たくさん。一部R18あります。 その他作品として、デュラララ!!(NL中心)とサマウォあり。

   

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テラピストは眠らない


 事後独普っていいよね!!という情熱だけで書いた話です。

 あんまりロマンチックでもなくえろくもなくてすみません。

 最中じゃないからR15くらいなんですかね?




 
 うっすら目を開けたら、ひどく焦燥した顔が近かった。
 少し、戦場帰りの血まみれの俺を上目遣いで見ていた視線に似ていた。汗の張り付きは、確かにそれに似ているかもしれない。色の有無より塩気として。あ、でも鉄さびの匂いも感じなくはない。少し切れたか。初めてなら仕方ないか。鍛えてない部分なだけに、誤算だった。痛みは我慢できるけど、それを気遣う目はおもはゆい。
大丈夫だって
 そうかつてのように言おうとして、咳き込んだ。やっぱり無理をするとあんまり持たねぇなこの身体。筋肉はあるけど持久力はない。
「兄さん」
 童貞を捨てた弟は、いつもより幼く見えた。
 それは相手が俺だからか、と思うのは自惚れだろうか。
 
 ああ、俺はお前の不器用な泣き方には昔から弱いんだ。そんな顔すんなよ。
 思わず、頬をなぞりたくなる。でも、それも出来なくて、代わりに弟が俺の頬をその厚い指で撫でてくれた。それは涙なんじゃない。汗だ。もしかしたら鼻水が入っているかもしれないけど、あまりロマンチックな体液ではない。それでも、弟は恭しくなぞる。
 くそっ、最中は余裕がなかったからあんまり顔とか見ていなかった分、今の方が照れるぜ。
 そしたら、向こうもそう思ったのか、頬が朱色だった。血色がよい筋肉が多い分、アドレナリンも行きわたりやすいらしい。効率的で俺好みの身体だ。
「くすぐってぇ」
「悪い」
「謝られてもなあ」
「それが、どうしたらいいかよくわからないんだ」
「別にいいぜ。好きにしろよ」
「それは良くない。だが、やり方についてはマニュアルを読んだんだが、出血の対処までは書いてなくてな」
 一気に汗が冷えた。
 可愛い弟の、可愛い皺の多い額には、『セックスの後ノウハウ ~男同士向け~』を買いにいかなくては!、と見事に書かれている。
 冗談じゃない。
 そんなことされたら、放心状態の俺はほっとかれっ放しでしょっぱい身体に泣けてくるぜ。
 慌てて俺はなけなしの残力で、弟の腕を掴んだ。
「お、俺様、処置方法わかるから、な! 教えるから。な!!」
「そ、そうか。しかし、どうしてだ兄さん」
 いや、前にもこういう風で怪我したことは流石にないけど、戦場では急所なだけに、攻撃されて運ばれる兵は結構見ていたしな。
 細々と説明すると弟は納得してくれた。
 良かった。誤解されたら、しばらくこの男、兄さん兄さん兄さんまさか俺の前に前に前に、とヤバい方向にヒートアップしかねない。
最中をリードしてもらった分、こういうツケが来るとは。でも、頼られるのは兄としてまあ悪い気はしない。
 
 台所から戻ってきた弟は、フローラルの香りがした。
 蒸しタオルとしかこちらは伝えてなかったが、ご丁寧にケルン名物の香り水を振りかけて来たらしい。道理で時間がかかってきたわけだ。
 シーツを上半身だけ被せた俺を、消毒薬で遠慮なく叫ばせた後、火傷や切り傷に使うクリームをチューブから取り出した指が近づいてくる。
 俺は無防備にそれに力を入れないように、たくさんの小鳥を撫でるとか、たくさんのパンダを撫でるとか、あんまり弟とかかわりがないことを考えることにした。よく見えないと塗れないからと、ばっちり照明は全点けだ。丸見えだ。そういうことでも考えないと耐えられないんです兄として。
 しかし、弟は真剣で。慌てもあった行為以上に真剣で。
横やりも入れにくくて、覗き込む肩が、強そうに育って良かったなぁと思ってしまったり、耳が堅そうで形も良くて惚れぼれするなぁと思ってしまったり。
「塗るぞ」
「おう」
 触れる。
溶ける。
染みる。
滲む。
 
 すかさず弟は蒸しタオルで押さえつけた。
 やべこれ気持ちいいかも。でも、癖になったらやばい。何かもう兄としてていうか、生き物としてやばい。
「ん」
「痛くないか」
「大丈夫だ」
「このまま10分押さえるんだな」
「そう。専門的な医学とかじゃねーけど、昔修道会でやってた」
 やがて、痛みも薄れてきて、とろとろと体内を湯気が上るような感触に、ローズマリーの香りも手伝って、瞼が降りて来た。
 ヴェスト
 弟の名を呟く。そしたら、少し彼は笑って――笑顔を作るのが、あまり上手くはないから、困ったような顔になっているけど、それはそれで魅力的な――なんだ、こんなに頼もしくなってたのか。
 安心して、俺は目を閉じた。
 
 
 
 巻きラジオのサッカー中継は、遅れがちな時計にも似て雑音が多かった。
 店内は広くもなければ狭くもない。
 ただ、レジ前の体重計には決して埃は被っていない。薬を買う直前に計って適量を確認する客も多いためだ。
 重りと言えば、これまたアンティークな鈍い真鍮の天秤もある。こちらも、まだまだ現役。先ほども、オブラートにきっかり1gの粉薬を包むのに活躍したばかりだ。
 木製のドアが閉まり、それを告げるカウベルが『またの来店を』と言うかのように鳴った。梁とレジ台が自慢の薬局は、赤いAと医神の蛇が特徴的な看板はつい先日作りなおしたばかりだというのに、そろそろクリーム色の外壁を塗りなおさなければならない。
 老眼鏡を白衣の袖で拭いた店主は、窓の外で、待っていた犬のリードを解いている青年を見ながら、誰ともなしに呟いた。
 
「ドイツさん最近よくガーゼを買ってくなぁ」
「軟膏も多いわよ。やっぱり、傷が絶えない生活なんでしょうね」
 連れ合いも、棚のカモミール茶の箱を並べなおし、冷めたアールグレイをスプレーした布で磨きながら応じた。

 ラジオからはツヴァイテリーガの放送が続く。まだトップチームに上がれない地元チームが、ブンテスに上がれるかという瀬戸際で、少しだけ街は高揚している。
 
 
 
 
 
fin
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