ヘタリア好きが懲りずに作ったブログ。元Pangea。今回も超大陸から名前をいただきました。 CPは独普・米英米・独伊独・西ロマ・典芬・海拉・英日などなど。NLは何でも。にょたも大好き。史実ネタ時事ネタねつ造たくさん。一部R18あります。 その他作品として、デュラララ!!(NL中心)とサマウォあり。
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工業用ミシンは軽快な音を立てる。ベルギーから取り寄せたアンティークレースはまるで初めからそうであったかのように、タイシルクの生地に吸いついていく。
ワンポイントの刺繍は小鳥と矢車草だ。そこは譲れない。
最後のひと針を縫うと、勢いよく扉をあけ、ソファでポテトチップスを咥えながらクイズ番組を見ている兄を拘束した。
「うわっ、何するんだヴェスト!」
「ふむ、やはり兄さんはピンクがよく似合う」
「あ、俺好みのさわり心地」
「だろう」
「て、そんなんで脱がせようとするのを気にとめないほど俺は馬鹿じゃないぜうわなにするあ~れ~!」
画面の中で、4択が2択まで絞られても決まらず、助け舟の電話をかける回答者よりも、冷や汗をたくさん流す兄は、しかしその汗さえも出来あがったばかりの衣装にしみ込むことが楽しかった。
白い肌に肩ひも、白い腰にも紐。
胸を包むように広がるレースは微かに透けて肌を飾る。
「先日、裸エプロンというものを日本から教わってな」
「お前の次に、俺が育てて、どうしてこうなったって嘆きたくなる男だなあいつ」
『決まり文句があるんですよ。ご飯にする? お風呂にする? それとも……』
日本に教えてもらった内容を示すと、兄はあーとかうーとかうめいた後に、ぼそぼそ、まだ新婚20年目だしなぁとか、お前が俺に頼みごとなんて珍しいとか、呟いた。
玄関のチャイムを俺は鳴らす。返事が聞こえる。
「俺だ」
簡単な言葉に。やがて階段を下りる音がドアの向こうから響いてきて、足音が近づいて、ノブがまわる。開くのが待ち切れずに、隙間から自分でドアを開くと俺の手作りエプロンと鉄十字だけをまとった兄が、おたまを持って「おかえりヴェスト!」と笑ってくれた。
「今夜のアイントプフは結構いい出来だぜ! あと風呂はお前の好きなハチミツフレーバーにしておいた」
言葉が待ちきれなくて、抱え上げる。
上目遣いより、同じ視線になりたくて。
「ちょっとおい、まだ『それとも俺様?』って言ってねぇって!!」
「仕事場から戻ってくるシチュエーションまで用意してここまで待たされたんだ。もう待てない」
「はっ、何事にも完璧に、だろ?」
おかえりなさいのチューをくれてやるぜ、と髪の毛を乱しながら、ちょっと乾いた唇を落としてきた。
どうやら、俺は結構、この歴戦の新妻に敵わないらしい。
完璧を期すために、翌朝の『いってきますのチュー』のために睡眠時間1時間となってしまったのは、また別のお話。
fin
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