片手にワックス、片手に自分を抱えた兄弟に、これっていわゆる拉致という奴じゃないかと思い付いたのは、トレーラーハウスの折りたたみの椅子に座らされたときだった。
「そんなわけでCGなんて使う予算がないんだ。予算と期間は守らないと訴えられちゃうからね」
「そんなわけってどんなわけだよ、どうしていつも君はいきなりなんだい」
「とにかく、早く外に出るんだぞ」
すっかり彼の手で髪を整えられた自分は、鏡の中でやっぱり彼と同じ顔で、それにしてもどうしてこの鏡こんなに電球がくっついているんだろうなぁ、とぼんやり考えた。
ああ、今日はクマ衛門さんとメープルシロップをたっぷりつけてじっくり焼いたアップルパイを食べる予定だったのにな、きっと帰る頃には冷めちゃってるだろう。
まぶしい砂漠の日差しを浴びて、遠くにテーブルの形で水平に刃で切られたような岩山に目を細めた。あったかいのは好きだけど暑いのは苦手だ。
「ワオ! 君が助っ人かい!」
「とりあえずこれ持って!!」
「すごっ! 本当にそっくり!!」
「それより透けてることに驚こうよ!!DDDDDD!」
テンションが似たような人ごみに囲まれて、体感気温が余計に上昇した。
拉致した張本人はと言うと、すでにカメラの前でポーズを撮っている。
主役の俳優は苦笑いだ。確か、彼の出身は大西洋の向こう側だった気がする。
お祭りは嫌いじゃない。
迎えられるままに、アメリカと同じポーズを取った。
何度も試写を繰り返しても、誰も見つけられなかったためか、試写会に遅刻してしまって自分はチェックできなかったからか、その映画の予告編に自分が映っていることに気づき慌てる次のエピソードも。
見つけられたのはいくつかの国家さんたちだけで、それも兄弟勘違いしていて、大した問題とならなかったことも、また、別の銀幕にて。
the end
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