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Pannotia

ヘタリア好きが懲りずに作ったブログ。元Pangea。今回も超大陸から名前をいただきました。 CPは独普・米英米・独伊独・西ロマ・典芬・海拉・英日などなど。NLは何でも。にょたも大好き。史実ネタ時事ネタねつ造たくさん。一部R18あります。 その他作品として、デュラララ!!(NL中心)とサマウォあり。

   

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スケープゴート (独普)


 生け贄の仔ヤギな兄さん(山羊座)です。
 誕生日記念!!

 タイトルとは裏腹に、全然グロじゃないですが。


 タダ酒。
 それは、人を魔性に駆り立てる誘惑の言葉。

 タダ飯。
 それは、人を野獣に変える甘美な響き。



 アイボリーのテーブルクロスが半分外れかけている居間に踏み込んだドイツは、足元でクラッカーが割れる感触を、仕事用のそれなりに形式を重んじる空間でも十分使える革靴に沁み込ませてしまった。
 寝る前に靴を磨かなければ。
 いや、それより前にこの惨状をどうする。
 愛用のラグには、横倒しになった赤ワインがこぼれ、サングリアのオレンジはなぜか壁に張り付いている。フローリングの木のところどころにある穴は、いくつかの種類の線条痕を示していた。硝煙の匂いなんぞいちいち嗅ぐ気はないのでドイツは近づかなかった。

 テーブルの鉄製の脚にはフランスが裸足のつま先をひっかけているし(それより上半身側については実況したくない)、スペインはソファの背もたれに腹をくの字にして窓辺に干されたシーツのように身体を折っている(これで寝られるなんて、何という無駄な腹筋だ)。

 ある意味、寝相はいいのかもしれないイギリスは、暖炉の前にただでさえパッサパサの髪の毛が、火で焙られて先っぽが炭になりそうな向きで突っ伏していた。見える範囲内ではまともな服はなく、辛うじて首と腰に紐が巻かれているくらいであることについては、見なかったことにした。こころなしか、彼の作製するスコーンに似た匂いがしないでもない。後で、消臭剤を撒いておこう。

 安楽椅子では、オーストリアがクラリネットとオーボエとファゴットを逆さの向きにして両手に抱えたまま微動だにしない。三本もいっぺんにどうやって吹くつもりだったのか。鼻の穴でも使うのか。
 その足元にはスイスが、バナナを構えながら眉間に皺を寄せて、椅子を背にして座り込んでいた。目を開けたまま寝ていることに気づくまで、ドイツは数秒要した。

 フランスとスペインはともかく、誕生日だからとアドレス帳の片っ端から連絡を取ったのだろう。タダ飯タダ酒に引きつけられた度合いが限らなく高そうな連中ばかりに、ドイツは肌寒い夜気も回り始めた空間に寝転んだ面々に対して、毛布をかけてやる優しさを追い払うことにした。
 せめて起きたら掃除を指示させるように、パーティの主を探すことにしたが、見渡す空間には見当たらない。

 奥に入り、寝室、浴室と確認していて、台所に入った。火は止められたが、やかんからは湯気が出ている。クリームが泡立てられたボウルが置かれている。人気の名残のある台所は、それでも居間よりは機能性を保っていた。
 はて、兄はと推察し始めたドイツの前で、勝手口のドアが開き、ハーブを積んだプロイセンがひょっこり顔を出した。ダウンジャージを着こんでいるが、歯をかちかち言わせている。

「ひゃ~~、さび~~~!! お? 帰ってたのかヴェスト」
「兄さん」
「悪りぃな! 客帰したらちゃんと片付けするからさ。お前も飲んできただろうから、これからカモミール煎じるから飲まねぇか?」

 寒そうな兄のコートを脱がせ、思わず腕で温め始めたドイツは、それほどビールの匂いがしないことに気付いた。体温は冷え切っているし、酒精がそれほど入っていないのだ。声のトーンも、普段の通り。
 そう言えば、居間にはビール瓶は置かれていなかったことを思い出す。

「珍しいな。兄さんがビールで酔ってないなんて」
「ちょっとは楽しんだけど、主賓が潰れるわけにはいかないだろ。どっちにしろ、最近はあんまり強くもねーし」

 急に暖かい場所に来たからか、プロイセンのケセケセ言う笑い方も心なしか鼻声だった。くしゃみして、クーヘン作る手順を忘れそうだからと、居心地のいいドイツの胸板を抜け出した兄は、ティッシュで鼻をかんで向き直る。
「何しろ今日は俺の誕生日だからな! キリンのように恐ろしく、もてなしてやったぜ!! ケセセセセセセ!!」

 まったくこの人は。
 この寒い時期には体調を崩しやすいのに無理をして。
 風邪気味の国家を招いて、インフルエンザのごとく感染して具合を悪くしたらどうするんだ。

 国家である自分たちには、人間の病気の流行など、ほとんど縁がないのにもかかわらず、ドイツは唇を噛んだ。
「兄さん、もう今夜は休んでくれ。後は俺がやっておくから」
「いーやーだー。俺様の誕生日なんだぜ。俺が主役だ!」

 ふんぞり返った細い首が、ひたすら白かった。

 


「本日は、兄様をお招き下さり、本当にありがとうございました」
 頭を優雅に下げたリヒテンシュタインは、その背に自分よりも一回りは大きいスイスをしょっている。
 小国ではあるが、国民一人当たりの経済力はかなりのもの。見た目よりしっかりしているのだ。国とは言え、女一人の夜行は心配でなくともなかったが、リヒテンシュタインの後ろには、両腕でオーストリアを抱えたハンガリーがものすごくいい笑顔で立っている。
 ああ、それは確か以前日本に教えてもらった「お姫様抱っこ」という代物だな。ドイツも何度かプロイセン相手にやったことがあるが、普通は男役が女役に行うものだった気がする。
 これなら、どんな賊が表れても5秒で逃げ出すに違いない。

 フランスとイギリスは、アメリカに片手ずつ抱えられて持って帰って貰った。いつもながら、あれには流石に感心する。ドイツはイタリア一人目とイタリア二人目相手なら可能だが、あの二人は勘弁願いたい。
 スペインはそのイタリアに二人がかりで、頭と足とを抱えられて返って行った。本人に意識があったらどんなに喜ぶだろう。しかし、現実はそれほど甘くないものである。

 女性二人を見送ったドイツは、台所に戻った。

 さるぐつわをしたプロイセンが、引き戸にもたれて、赤い目をいつも以上に潤ませながら、ぼんやり食洗機のあたりを向いていた。
 服も乱された素肌も、さっきまでボウルにあったクリームで汚されていた。まるで、次の瞬間に、プロイセンよりはるかに大きな存在に、頭からバリバリ捕食されてしまいそうな。

「兄さん」

 身体の向きは変えずにプロイセンが身じろぐ。

「大丈夫、俺が一晩まるまるかけて、きれいにしてあげるから」

 さあさあ、赤いお目めの、こやぎさん。
 声をからしてないておくれ。
 手足をぶるぶる、ふるえておくれ。

 オオカミさんに、たべられてしまわないように。

 さあさあ、かわいいこやぎさん。

 スープで煮込まれたように、くったりとなったプロイセンを、ドイツは毛布で抱えて、嵐の去った居間を尻目に、寝室のドアを閉めた。

 それなりに長い時間くったりとなっていたプロイセンが、次に居間にはい出してきたときに、魔法のように家の中がきれいになっていたのは言うまでもない。


 まあ、ある意味では、めでたし、めでたし。













 fin


 

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