シーランドにクレヨンを買ってやった。
子どもにとって、冬場は外に出られないから。いい加減積み木で遊ぶ歳ではないし、だからといってテレビゲームも教育上良くないだろうと。
その晩、フィンランドが困った顔で持ってきたのは一枚の真っ黒い絵だった。
「心に浮かんだもの何でも描いてって言ったんですけど……」
紙は豊富にあった。クレヨンはなくなれば、炭もいくらでもあった。
みるみるうちにシーランドのまわりは黒い絵でいっぱいになる。自分達の育て方が悪かったのだろうかと、謝罪と相談のためイギリスに連絡した。
イギリスは、カウンセリングを始めたが、返答はなく黙々とシーランドは描いている。八方塞だった。
もっと詳しく調べてみようと彼はシーランドを連れて帰った。いつもなら悪態をつくシーランドは、おとなしく画板を肩に掛けながら、紙を塗りつぶしている。
見送りながら、フィンランドの肩が震えていた。この女房のせいではないことはわかっていたのでそっと手を置いた。
ある日、掃除中に花たまごが何かを拾ってきた。
ジクソーパズルのピースだった。シーランドのおもちゃの一つだろう。小さな欠片を受け取り、眺めていた俺を見て、残された絵を拾い集めていたフィンランドがあっと言った。瞬間、電話が鳴った。
広大なマナーハウスの庭に敷かれる黒い画用紙。ところどころに青い部分が輪郭として存在していた。
イギリスが呼んだのか、アメリカに日本にラトビア、絵にはうるさいフランスとイタリアまで一心不乱に絵を並べている。
やがて、シーランドの領土がシルエットで浮かんだ。寸分違わぬ大きさで、海に浮かぶ鉄の島。
フィンランドが駆け出した。シーランドをしっかり抱きしめた。
鳥は想像力より高く飛べない。
ままごとのような家族であることは理解しているが、誰よりも小さな身体で、大きな想像力を持つ子をたまらなく誇りに思った。
FIN
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