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Pannotia

ヘタリア好きが懲りずに作ったブログ。元Pangea。今回も超大陸から名前をいただきました。 CPは独普・米英米・独伊独・西ロマ・典芬・海拉・英日などなど。NLは何でも。にょたも大好き。史実ネタ時事ネタねつ造たくさん。一部R18あります。 その他作品として、デュラララ!!(NL中心)とサマウォあり。

   

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草津の湯でも (仏加+日)


 仏加ですが、ほとんど仏と日でうだうだやってます。

 仏兄ちゃんは、美しい物ならどこの国の文化でも玄人並だと信じていますl。

 フランスでは、親友の妻は口説いていいけど親友の娘はまだ判断能力がつかないから口説いちゃいけない、と聞いたことがあるから、というネタ。


 
 大丈夫かと確認したくて触れたカナダの唇はひどく冷えていて、鉄鉱石の味がした。
 この子は昔からがまんが得意だった。さびしかったはずだろうに、気付かなかった俺を責めることなく、名前を呼ぶだけでうれしいと、いとしいと口に出した。
 雛の産毛を思わせるやわらかくしなやかな髪は、揺れるたびに俺を煽る。
 いつまでも煽る。
 きっと触ったら、汚れてしまうだろうに。
 だけど、俺はあの寒さと噛み締めた歯でひび割れた唇を濡らし溶かし尽くしたくてしょうがないんだけど、気になることがあるんだ。どうしたらいい?
 
「どうしたら、と言われましても。何故にこういう話題が苦手な私のところに相談に来ますかね」
 
 じいさまなだけあって日本の朝は早い。シャルル・ド・ゴールからの便はナリタに早朝に到着したため、日本の自宅に着いたのは午前中だった。
 冬物の羽織は、濃紺であったかそう。細かい繊維が格子柄に見える。草木染の帯には柿色の帯締めが巻かれ、逆色とも言える配色ながら、色の少なくなり始めた住宅街では不思議に栄えて涎が出そうだった。あ、いやこれはファッションの最先端に身を置いているものとしての意見が主なんだけど。
 羽織の主は、スライド式の扉の向こうで、面倒くさいというフォントを顔に貼り付けて俺の前に立っている。
 
「相談に乗ってあげたいのはやまやまですが、私はそういう話題は苦手でして」
「聞いてくれるだけでいいよ~。だって日本俺のタイプだし☆」
 
 格子扉がそりゃもう勢いよく閉められた。蝋でも塗っているのか、やたらすべりがいい。
 しかし、ここで引き下がるお兄さんじゃないよ! 必死で脚を挟んだ。ノンの「ノ」ぐらいのタイミングだ。数千ユーロするブーツが傷むのも気にせずに。
 
「ミシュラン掲載店増やすでも、三ツ星レストランでも、MOFパティシエでも何でもどの都市でも派遣しますから聞いてマジで!!」
「……仕方ありませんね」
 
 数cm開かれて、日本の大きな目がこっちを見ていた。こうなったらこっちのものだ。仕上げとばかりに、俺お手製のマカロンとフォンダンショコラが入った紙袋をちらつかせた。額に手を当てて嘆く美形にしか決まらないポーズでダメ押しだ。
 
「考えてもみてくれ。俺の隣国ったら、イギリス、スペイン、ドイツ、スイス、イタリア……頼りになると思う?」
「私だったら、何一つ言わないでしょうね。あ、虎屋の羊羹がありますが」
「ウイ、シルブプレ」
 
 自宅に行き来する国家の中で、この家ほど心地よいところは少ない。イギリスに行けばロクな物が食えないし、アメリカに行けば延々下らない映画か野球しか見られない。お兄さんは、ヌーヴェルバーグかサッカーが見たいの!
 
「抹茶もお好きでしたよね。立てて参りましょう」
「悪いな」
 
 中国やロシアにそんなもの期待するほうが無駄というものだ。
 ドイツのところはイタリアやプーちゃんと仲良くすると後が怖いし、スペインはお前お邪魔虫やわ~と面と向かって言うようになった。両方とも行っちゃうけどね。
 というわけで、気楽に出来てかつ心地よい接待が期待できるところといえば、ここともう一箇所しかなかったりする。
 
 古めかしい小さな壁掛け時計も、桐の箪笥も、伊万里の花瓶も、新型のガンプラや、無造作に隅に置かれたみかん箱と書かれたダンボールでさえ、良い空間だと思わせる作用があった。
 
「栗羊羹の新味が出まして。フランスさんは、苦めがお好きでしたよね」
 
 茶を立てた日本は、そっと盆から食卓に置いていく。漆の塗られたフォーク代わりの棒も添えて。楽焼に近い石灰の色が満遍なく散った小皿にちんと直方体の小豆と栗が鎮座している。見かけと比べるとびっくりするくらい軽い黒織部には、緑のやんわりとした哲学が満ちている、俺は主に挨拶をした後、90度ほどまわしてすすった。
 
「やっぱいいなぁ~~。ねぇ日本」
「遠慮しときます」
「まだ何も言ってないじゃない」
「予想できますから」
「そういうとこ好きよ。チュ☆」
 
 投げキッスの先にいないと思ったら、唇に羊羹が当てられた。ただし、刀に串刺しにされた。
 
「私としたことが切り分けるのを忘れてました」
 
 ごめんなさいもうしません。結構なお点前で。
 仕方ないのでそのまま口に含みながら本題に移った。
「カナダがね。同じなの」
「何がですか」
 
「普段とセックスの時のテンション」
 
 日本が吹いた。ごほごほ言っている。これはこれでエロティックだと思った。口はしに緑色の液体ついているし。お兄さんも萌えっていうのがちょっとわかってきたので、これは恋愛対象とは似て異なる萌えというものなんだろう。
 一しきり口を袂で押さえて、ようやく落ち着いた日本は、残りの抹茶をあおった。礼儀より動揺が勝ったらしい。
 
「失礼しました。そもそも貴方とお付き合いしているってことも初耳ですよ」
 むせさせたのは俺なんだけど、まあ、意味なく謝るのが日本の美徳なんだから仕方がない。そこで話を続けることにした。
 
「普通さぁ、盛り上がんない? むしろ、俺が盛り上げてやるってもんよ!! 言っとくけど俺が下手っていう可能性はゼロだから。ありえないから。ちゃんと感じているし、ちゃんと声出してくれるし。あの子演技するタイプじゃないからさ~~。ていうか、むしろ普段が色気ありすぎるっていうか、頬染めを大安売りするのみたいな」
「あんまり詳細を大声で話さないでください! ご近所迷惑になります!」
 
 ぜはーぜはーぜはー。千余歳と二千余歳になるとテンションの調節が難しい。人間らしく言えば更年期障害のような症状なのかもしれない。経験したことないけどね。最近は男の人もなるらしいし。 
 
「あ~~、何で好きになっちゃったんだろう。若いのは範囲外だったのに」
「そうだったんですか、意外です」
「意外でしょ? ちょっかいかけているメンバーでも、イタリアとかはああ見えて意外と歳食ってるし、スペインは何だかんだで同年代。イギリスも、まああの性格じゃなかったらもうちょっとアプローチしてたかもなぁ、顔はかわいいし。一時はだからエジプトや中国やギリシャに大ハマりしてたね~フラレたけどさ。アメリカやセーシェルなんかは、もう子どもっていうか孫っていうか……」
「それは何となくわかります」
 
 今度は煎茶をいかがですかと、日本が続けて、こちらも応じた。鉄瓶から急須に湯が注がれる。
 これよこれ!余裕って言うの?阿吽って言うの?
 
「……やっぱ年上はいいよなぁ」
「はあ」
 楊枝を手に何を言っているのかと言わんばかりだ。
「だって恋愛経験のない奴なんて比較基準を持ってないから、俺を選ぶ確固たる理由を持ち得ないだろう。他を知らないんだから。そんな苦労しないで得る恋愛なんてロクなもんじゃない。生後一か月からお兄さんは愛せる自信はあるけれど、そこで打ち返せるほどにまで育ってる方がやりやすいね」
 
 縁側からの太陽は、午後の一番高いときでさえも柔らかくて、鱗雲が見えた。雪みたいな雲だなと思わず笑みがこぼれる。笑みのまま、日本と目が合ってしまって日本もわずかに口角を上げた。これは、見透かされたんだろうか。まあ、それならそれでいい。
 
「なのに俺は、他を知らない未熟者に付け込んじまったんだ。最悪だ」
「何かご不満でも」
「ないから困ってるんだよ。何せずっとアメリカの隣人やってたから、気はきくし、忍耐強いし、抱擁力あるし……」
 
 ぽわぽわ、いいですよ~とにこにこ微笑む恋人の顔が浮かぶ。背は同じくらいなのに、自信のなさからか猫背だから、見上げてくるのが可愛い。有無を言わさず、押し倒したくなるほど可愛い。これじゃ駆け引きなんて出来るはずもない。
 
「しかも、フランスさんよりお金持ちです」
「だよね~。ファッションはアメリカ以上に興味ないし、食いもんは自給できてる」
「ならば未熟ではないのでは」
「恋愛は別さ。中国がいい例だろう」
 
 なるほど、とばかりに日本は拍子を打った。キッチュなキャラが大好きな古参中の古参である仙人の妙なファンシーさには周知の事実だ。
 話題の主から、知的財産が心配になったのか、手持ち無沙汰になったのか、日本はDVDの整理を始めた。これ以上話を持たせるのは難しいから、何かかけようと思ったのかもしれない。ラインアップは、ほとんどがアニメだった。あと時代劇と海外の映画祭で評価された作品がいくつか。オヅかイマムラのか、パンチラがたくさん出て来る奴が見たいな~と日本がケースを取っていく手に視線をやると、ふいに一カ所で止まった。柔らかいファンタジー風味溢れるパッケージだ。なーんだ、ハイレグも谷間も期待出来ないか。
 
「フランスさん、私、ロリの気があるんですよ。うちの国民が若い子大好きだからですかね」
 パッケージを持った日本は、浮世絵のように見返った。
「初な方を自分好みに育て上げるのはここ千年ほど、理想の形だったりするんです」
「日本?」
 ええ、それはそれは素晴らしい笑みです。ホトケの慈愛あふれる微笑みとはこういうものを指すことでしょう。
 
「赤毛に染めて、おさげの文学少女にコスプレさせます。肌が白くて、あの清純な顔立ちですからさぞやお似合いでしょう」
「ちょ!やめっ!にほ……」
「ブレネリと同じくらいやってみたかったんですよね。プリンスエドワード島で行きましょう! BGMは、カナダからの手紙に決まりですね。ラブレターが送られてくるんですよ。安心してください。ハヤオ作画の三次元再現も、我が国の技術力をもってすれば「やめてぇ!」
 
 うっとり昇天寸前の日本の袖にしがみついて、パッケージを奪い取った。コスプレは好きだけど、他国の好みにはさせられない。やっぱり嫌だ。
「……経験を与えることに文句はないのでは?」
 
 与え方も色々ありますってば! ただでさえ、毒されやすい子なんだから、アメリカの影響もあるし、極端な方向に走られたら後悔してもしきれない。
 世界一気が利く国家であるこの目の前の相手が、世界一気が利かない国家と仲良くできる理由がわかるのはこういうときだ。そんなことされたらお兄さん泣いちゃう!
 俺の慌てぶりにふっと日本は真顔に戻った。まあ、半分は冗談ですが。半分は本気だったんですね、そうですね。
 
「私が手を出さなくても、カナダさん、最近よくカリブ海に遊びにいらっしゃってますよね」
「……あの子、クマもそうだし、ひょっとして毛フェチ?」
「百戦練磨とも思えない解釈をありがとうございます」
 
 ロシアでさえ止めちゃった国策を今だ続けている島国を思い出す。お兄さんは自分の胸毛はチャームポイントだと思っているが、あれには負ける。くそっ、年下のくせに~!いや、でもカナダから見れば、若い者同士で気が合うのか? 嫌~!そんなの嫌~!
 
「あなたやイギリスさんを見て、経験なんて意味がないって、よくわかりました。いつでも恋愛は初心者気分なんじゃないですかね。老いぼれの考えですが」
 
 もう日本の結論も聞いちゃいない俺は、一点ものの鞄から携帯を取り出した。よし、電波は立っている。
「電話して来ていい!?」
 
 何を言うわけじゃない。今、日本に言ったみたいな、自分だって余裕がないことを言ってしまおう。プライドより、少年に近い恋心が勝る瞬間だってある。いや、それより誰かの毒牙にかかってないか心配だ。森の中で、メープルシロップを籠の下に仕掛けておけば、自分から罠に入ってしまう子だ。ああ、どっかに閉じ込められて売られていたらどうしよう。はるばる海の向こうに箱に詰めて運ばれて……。
 
「どうぞ。あ、夕ご飯食べて行きます? ちょうど松茸が送られてきましてね。一人で豪遊も悪くないですが、こういうものは誰かと食べ……」
 
 無味感想な着信音が部屋の隅から鳴り出した。音楽にこだわりのない恋人は、誰からの着信でも同じメロディだけど、鳴る頻度が少ないだけですぐ出てくれ……何で着信音がここで聞こえる?と思ったら、日本の裏返った声が聞こえた。
 
「誰ぇ!!」
「……カナダだよ」
 通話口と日本の質問の両方に、いとしいあの子は答えた。半分寝ぼけた目を擦りながら、日本の向こうにある段ボールの中で。
 
「確かに、カナダ産を買い付けましたが! 中国さんや韓国さんからのがちょっと不安になって……でもどうしてここに」
「森で寝てて気づいたら、この中だったよ」
「私の松茸!」
 
 メープルシロップでなく松茸なのは予想外だったが、ある意味、心配は当たっていた。近づく。はまっていたので、肩を持ち上げてやった。おがくずが髪にくっついていたので、縁側に連れていって掃う。耳に手が触れた。いじりたかった。
「どこから聞いてた?」
「松茸!」
「日本さんがタイプだっていうのが、遠くで聞こえた辺りから」
「それは謝る」
「そんなことより私の松茸……」
「……ごめんなさい。今度イクラとお肉も付けて送りなおします」
「それなら☆」
 さすが、俺に勝るとも劣らないグルメ大国だ。仏教の国のはずなのに、大の肉魚好きというのもどうなんだろう。現金なものだ。しかし、松茸って日本のものなのに、どうしてわざわざカナダとかから買い付けるんだろうか。
 
 日本に見送られて、空港まで行く駅に着いた。会議とかではないので、ちょっとした旅行気分だ。プライベートなので手をつないだ。
 カナダは代えの服などを持っていなかったので、駅ビルのデパートで鞄と服を、途中の古着屋で小物を買ってやった。タートルネックが余計に首を細く見せたりする他、俺の見立てなだけに似合うこと似合うこと。なるほど、これが育てる楽しみて奴か。
 
「でも、何で今こうしてしゃべってるときも、ベッドの中もお前はそういうかわいい顔なのよ」
「かわいい……!!」
 
 冷え症なんですと言う割に、手を繋いだり肌を重ねたりするとき、意外に熱い。今日もそうだ。
 ちょんと毛先に触ってもう一度言う。
 
「うん、かわいい」
「やだぁ、それ以上言わないで下さい」
「じゃあ、理由を教えてよ」
「それは……あんまり面と向き合って誰かとしゃべるってないし、ましてや好きな人からだなんて、それだけで……」
 
 つまり、熱いのは、手を繋ぐのも肌を合わせるのも両方特別だからって奴? お兄さん、自惚れてもいいかな。まあ、許可貰わなくても自惚れるけどね。
 
「……かわいいなぁ」
 なんせ、こんないじらしいかわいい恋人がいて、自惚れない理由はない。繋いでいた手を延ばして手首を掴んだ。方向転換して、タクシーを拾えそうな出入口に向かう。
 
「え……ちょ」
「近くのいい温泉知ってるんだよ。一泊くらいいいだろう」
「うん。そう言えば、関節が痛いです」
「そりゃ、あんなダンボールにいたんじゃな」
 
 けらけら笑えば、くすくす答える。
 なるほど、確かにダンボールに入って寝こけた恋人を介抱するなんて経験そうそうない。今夜は関節が痛いかもしれないから、いつも以上にやさしく扱おう。今している顔みたく、またうっすら紅を頬に浮かべて、泣きそうな目じりを震わせたりするんだろうな。今も見ているけど、やっぱり夜も見たいな。
 こんな風にときめくのは初めてなので、日本の年の功もまんざら外れていなそうだ。来て良かった。
 あ、あと浴衣で帯外しアレ!!ヨイデハナイカヨイデハナイカっていうの、やってみたかったんだよね。やってみたいことがまだまだあるお兄さんって結構若いんじゃないの?と悦に浸りながら歩いていたら、カナダがじっと見ていた。
 
 まったくまだまだ若いだけあってストレートなお誘いだなぁ、どれどれ、眼鏡つけたままでいいから、あっついペーゼを一つ……「フランスさん、この前髪の白髪抜いていいですか? 気になっちゃって」
 
 帰宅ラッシュの通勤客たちが、アニメでしか見たことのない白目をむいた金髪の男から発する、そこはかとなくロココ調のバラの香りがする、盛大かつ強烈な嘆きを聞くまで後コンマ2秒である。
 
 
 
 
  
 
 
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