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Pannotia

ヘタリア好きが懲りずに作ったブログ。元Pangea。今回も超大陸から名前をいただきました。 CPは独普・米英米・独伊独・西ロマ・典芬・海拉・英日などなど。NLは何でも。にょたも大好き。史実ネタ時事ネタねつ造たくさん。一部R18あります。 その他作品として、デュラララ!!(NL中心)とサマウォあり。

   

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Anfang von Ende (独と普憫)


 某有名児童文学をネタにしました。





















 
――絶対にそこに行けない人間もいる。いるけれども、そのまま向こうに行きっきりになってしまう人間もいる。それからそこに行って、またもどってくる者もいくらかいるんだな。きみのようにね。そして、そういう人たちが、両方の世界を健やかにするんだ。
 
『はてしない物語』より
 
 
 
 
 
 
 国がなくなる瞬間というのは、人も大地も草木も、大空でさえも飲み込まれていくのと似ていると言う。
 伝聞なのは、俺自身に経験がないから、そうなのかと思うことしかできないからだ。
 もちろん、なくなっていくと感じるのは亡国本人でしかなく、傍から見ていれば人や領土や畑や空は他国のものに完全に移ってしまい、その存在がいつの間にひっそりといなくなる程度にしか感じられないのだ。
 
 しかし、これほど身近に、かつある程度知っている国が消えるのに立ち会うのは俺も初めてだった。立ち会うどころか、少しばかり俺も絡んでいた。
 だから呼んでしまった。
 
 おれは神聖なんかじゃない、ローマ的でもない、そもそも帝国ですらない、という嘆きが聞こえてしまったから。子どもの割にませていた、その嘆きに。
 
 何もかもなくしかけていた子どもは、俺のとっさのつぶやきに見る見るうちに大きく目を広げた。
 
「いい名前だ」
 
 頬に付けられた生傷も、手の甲の擦られた跡も不思議と消えていた。それは、彼が国に戻ったという証拠だった。
「格好いいだろう」
 じぶんの母体となった師団からとった名は俺としても愛着があったのだ。俺はそれを彼に与えた。
 子どもは、嬉しそうにもう一度言った。
 
「いい名前だ」
 
 
 
 
 
 優秀だと思っていた。思われてもいた。
 段々、ほんとうのことを忘れていった。
 
 ある日、一人の声を忘れた。しばらくして、一人の顔を忘れた。それからまた少し経って、一人の作った料理の味を忘れた。とうとう、その人の髪のにおいを忘れた。
 
 自分の名前なんてとうに思い出せなかった。
 
 楽しくてしあわせな日々を思った。
 剣を持つ俺、竜を探す俺。空も飛べるかもしれないし、宝だって手に入れられる。強くて格好いい勇ましい、あらゆる形容詞が当てはまる俺。
 それが現実に起こったかどうかは問題じゃない。
 
 長い長い旅だった。
 広大な地には、魔物も賢者も妖精も魔術師もいる。ある者とはたたかって勝利し、ある者とは協力を誓った。
 
 何て何て何て何て!!
 
 双頭の蛇が互いを食む勲章を振り回しながら、俺は興奮していた。
 『汝の欲することをなせ』と刻まれたそれは、何もかも実現してくれる。
 
 あかがね色の瞳を称えられて、その剣術を賛美されて、ああ、敵はどこだ?そっちか!今行くから待ってろ!!徹底的にぶちのめしてやる。世界中を俺の目と同じ色に染めてやる。
 
 緑色の男が現れた。緑色は軍服だった。
 俺を見ていた。目の色と髪の色が混ざったら、やっぱり緑になりそうな配色だった。
 
「プロイセン」
「お前誰だよ」
 
「プロイセン」
「あっちいけ」
 
「プロイセン」
「俺は忙しいんだ。何しろ伝説の勇者さまだからな!!ケセセセ!!」
 
「プロイセン」
「何だよ、ついて来んな」
 
「プロイセン」
「いい加減しつこいぞ」
 
「プロイセン」
「それしか言えないのか。お前の名前なのか」
 
「首振ったってことは違ぇのか。じゃあ……」
 
 勲章の文字が光った。『汝の欲することをなせ』
 浮かんだことは、たった一つだった。
 
 
「体調は最悪、見かけも変わっちまった。もう俺には何もない。それでも……お前の家に帰っていいか」
「それは俺の望みだ」
 
 
 天井だった。鉄製のシャンデリアに小さめの電球がいくつか淡く灯っていた。
 隣では、弟が子どもに諭すようなセリフを言った。俺が小さくそうだなと言うと、目が合った。驚いていた、と思う。あかがね色で装丁された厚めの本を持っていた。
 
 後で食事を作りにきた隣国の説明によると、俺はここに引き取られてからもずっと目を覚まさなかったらしい。業を煮やした弟は、自分の家で発行された書物を年代順に片っ端から朗読し続けていたようだ。情報から遮断されていた俺に少しでもそれを聞かせていれば、いつかは目を覚ましてくれるかもしれない、と。
 なるほど、ただでさえやや低めの声が、より渋くなっていた。いくつも書物を重ねたため、目が疲れたのかメガネまでかけていた。
 
「児童書で目を覚ますなんて貴方らしいですよ、このお馬鹿さんが」
「どうせ俺はガキですよ」
「おや、素直に認めましたね」
「たまには、少年に返るのも悪くないからな。お前にもあるだろう、そういう時間」
「さあ、どうでしょう」
「おいそこ。聞いてないなら、もう読まんぞ」
 
 お願いだから、現状を認識してほしいという弟の頼みは、集中力の続かない俺にとってなかなかに酷なもので、読書すれば投げ出す、ビデオを見れば寝てしまっていた。
 これは、労働しなければいけない時間は一心不乱に働くが、それが終わると自動的に身体が休め!になってしまう性質が身についてしまったためだ。身体が空いたときに、何かする、という発想がだいぶ薄くなっている。まあ、最近はさすがに散歩に出たり、犬の世話をしたりぐらいはするようになってはいるんだが。
 問題解決のため、弟が選んだのはやっぱり朗読だった。この男、一度成功するとプログラムを入力された機械のように同じ行動を起こすのだ。
 本日、弟が読んでいるのは、死に向かうにつれて若返って子どもになって色々なことを忘れてしまう王様の話だった。昨日は名前を呼ぶのもうんざりするくらい高尚なうんざりする哲学書で俺がやっぱりうんざりして逆立ちを始めていたから、彼なりの配慮なのかもしれない。
 
「ドイツ」
「どうした」
「いや、何でもねぇよ。続けてくれ。それで王様は何て答えたんだ」
 
 1ページくらい覚えることもたやすい男は、それでも一言一句間違えることのないように、律儀に視線を短いセリフが書かれた本に落とした。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
fin
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