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Pannotia

ヘタリア好きが懲りずに作ったブログ。元Pangea。今回も超大陸から名前をいただきました。 CPは独普・米英米・独伊独・西ロマ・典芬・海拉・英日などなど。NLは何でも。にょたも大好き。史実ネタ時事ネタねつ造たくさん。一部R18あります。 その他作品として、デュラララ!!(NL中心)とサマウォあり。

   

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天使は詩わぬ (独普)


ベルリン天使の詩パロです。

羽つき空中ブランコ乗りの普と、戦勝記念塔にしゃがんだり図書館でそっと触れる独を書きたかっただけ




 

 

 高さはおよそ10m。人なら大柄な男でおよそ5人分ぽっち。網は薄く張ってあるけど、それだって最近は古くなった。危ない、というのは簡単だけど、玉乗り担当のハンスだって、クマ使いのヨハンだって我慢している。俺だけ安全を買うわけにはいかない。どこも予算不足。文句は言えない。

それに、どっちかと言えば、もしもの時用の網よりも、この毛羽立ち始めた翼を取り換えたいものだけれど、それはとても難しいことだ。

 

 それでも、俺は梯子のてっぺんにある台から、頼りなげに見える相棒を掴む。文字通り長さ30smほどの棒だ。掌に滑り止めを付けて――飛ぶ。

小鳥のように格好よく!

 天使のように軽やかに!!

 さあさあ、この翼への喝采は口笛と一緒にマルクでどうぞ!!

 

 

 

 戦勝記念塔からは、がれきが見えた。敗戦から数十年たっても変わらない部分はある。変わっている部分もあるけれど、そこにたたずむ人たちの気持ちはあまり変化はないことが多い。

 テレビのスイッチを切り忘れた老女の隣では、昨夜恋人と喧嘩した青年がピアスをいじり、子連れの母親は給料が少ない旦那に毒づく。子どもが俺に手を振ってきた。

「ママー、あれー」

「ん? ああ、飛行機ね」

 物資をほとんど空輸に頼るこの街では珍しくもないと、若い母親は判断しただろう。
俺は、気が付いてくれたお礼代わりに子どもの頭を撫でた。きゃっきゃ子どもは巻き毛を揺らして笑った。

 第二次世界大戦が終わり、俺の姿は一般人にはほとんど見えなくなった。外見の割には空気に近い質量になったかのように、簡単に宙を移動できるようになった。
国家連中は同情し、寛大な処置を施してくれたが、空虚感は変わらない。壁が出来て、完全に何かをあちらにおいてきてしまったような気がした。それが何かはイタリアもオーストリアも首をひねった。


 探し物なら図書館だ。
 それは昔も今も変わらない俺の習慣だ。誰が教えてくれたのかは昔過ぎて忘れてしまったが、おおかたオーストリアあたりだろうか。ウィーンの王宮には確か荘厳で美しい図書館があったことだし。

 所狭しと本が並び、ある者は勉学のため、ある者は休憩のため、机に座り、ライトに額が光る。近づけばやはり声が聞こえた。例えば、今夜のおかずのこととか、テレビのスターのこと。誰かを殺したい、自殺したい、獣と倒錯的な行為をしたい、何て言う声もあった。
 しかし、実行に移すことが無ければ何にもならないし、俺には影響は与えられない。気休め代わりに、肩を撫でてやったり手を握ってやったりするだけだ。
向こう側はまったく気付かないが、ほんの少し、顔つきが穏やかになる。俺の自己満足に過ぎないのだけれど。

 彼らの広げる本に何かなくしたものの欠片でもないか、悪いがのぞき見させてもらっていたら、ふと背中に誰かが何も言わずに触れた。相手はもちろんこちらの存在に気がつかないがそのまま通り過ぎた。

 そのまま本に視線を戻そうとしてはっと気付いた。

 どうして、これだけ近づくどころか、俺が触れさえしたのにまったく声が聞こえてこないのかと。
 慌てて、後を追った。
 もちろん、相手は俺に気付かない。そういう身体なのをほんの少し便利だと思うのはこういう時だ。


 図書館だけでなく人ごみでも目立つ色だった。茶髪、金髪、黒髪、赤髪が混じる中、一等星のような頭が、信号で止まる。転がってきたサッカーボールを器用に公園に蹴り返す。笑う。

 そして、やがて対象者は、がれきが残った公園の広場に立った大きなテントに吸い込まれていった。下卑たピンクや蛍光グリーンのライトが照らす。

 さあ寄ってらっしゃい、見てらっしゃい。夜のショーは6時からだよ!
 ビラを配るピエロは、ナイフ投げの的になっている女をどうやってデートに誘うか悩んでいた。

 開演前で人気の少ないテントでは、炎のついたジャグリングがまわされる間を通る。

「ようギルベルト。今夜こそ冥土に行くかもしれないから、景気づけに女でも買ってきたか」
「お前らこそ、今のうちに買ってきた方がいいんじゃねーの」

 笑って通り過ぎ、やがて象の鳴き声が漏れる檻の前を通って、小さなトレーラーハウスに入って行った。表札には、呼ばれた通りギルベルトとだけ書いてあった。
 俺も後から続く。プライバシーを侵害しているようで申し訳ないが、心が読めない相手というのは気になるものだ。

「一人楽しすぎるぜー!」

 小さなベッドに飛び込み、枕代わりにしているらしい白黒熊のぬいぐるみに小さくただいまと言った。ベッドには他にも、小鳥の置物だとか、アイスクリームの食べ終わったカップとか、片方の靴下などが散乱し、お世辞にもきれいとは言えない状況だった。
 電球で囲まれた鏡の前には、女性用の化粧道具まで並んでいる。どうやらギルベルトと呼ばれたこの男は、このサーカスの団員のようだ。

「あ、やべ。仮眠取るなら外さねーとな」

 当然、ギルベルトが俺の存在に気付くわけもなく、上半身のシャツを脱ぎ始める。その下には、革製の胸当てがあった。いわゆる女性用のブラジャーより、一回りも二回りも大きい。大胸筋でも鍛えるのだろうかと眺めていたら、後ろ手に青年は留め具を外した
 胸当てもまたベッドに放り投げるが落ちるより早く、干したてのシーツを敷きなおすときのように白が広がった。
 翼だった。

人間に? まさか――。
 こんなもの絵画の中でしか見たことなんてない。異形と呼ぶのは簡単だ。しかし、今の自分だって十分不自然な存在だ。誰が、彼を責めることができるだろうか。
 身体が楽になったのか、ギルベルトは自ら肩をそっと抱いてため息をついた。
 これが本当の天使のため息という奴か……壁に巨乳の女性のポスターが貼ってあるが。

「そろそろ、ここにもリンスしなきゃいけねーよなぁ。でも、団長以外に見られても面倒だし……」

 案外、悩みも感覚も現実的だ。
 でも疲れていたのか、仮眠が習慣だからか、やがて身じろぎをしなくなった。
 俺は、そっと近づく。別に荒々しく寄っても彼は気づかず寝ているだろうが、そんなに割り切れるものでもない。
 好奇心は猫をも殺す。
 ギルベルトの真っ白な羽に触った。意外に長いまつ毛が動いた。

「ん、触るなよ。ヴェスト……」

 反応した、だと。
 偶然だと思われたので、もう一度、その羽先を指に絡ませた。

「ふっ、んふ……。やらぁ。ずっとお前と会ってねぇんだから、いきなりは……」

 悩ましげに目じりが揺れる。吐息が加速する。ギルベルトの指先がシーツを押した。禁欲意思があったわけでもないのに、結果的に数十年間の禁欲だ。そりゃ、わずかな子どもは反応してくれるが、俺はどこぞの変態国家と違って、まったく子どもには興味がわかない。
 ヴェストというのは、この美しい翼人の恋人だろうか。こんなにさみしげで、いたいけな人をどういう理由で一人にしているのか。半ば怒りを、半ば嫉妬を抱きつつ、思わず、羽をいじっていじりつづけて、苦しげにギルベルトが下着を濡らすのを止められなかった。








 夢を見た。

 まだ、俺が「国」だった頃の夢だ。
その時には隣にヴェストがいて、俺たちは兄弟で恋人同士だった。
 だけど、俺らは色々間違ったことをした。詳しく語るときりがないので割愛するが、ともかくそれで罰せられた。
 当初は、引っ張っていたのはヴェストだから、と弟の身体も心も国であることも、すべて剥奪される、と言う約束だった。
 しかし、運命共同体だからと、国であることだけは俺が捨てることにした。ヴェストは嫌がったが、ほとんど無理やりだ。その代わり、あいつは身体がないから一般人には触れなくて、心がないからほとんどのことを忘れてしまった。当然、俺のこともだ。

 俺は、国ではなくなったけれど人間でもなかったため、老いることはなかったし、その違いをはっきりするために翼を生やされた。おお、小鳥のように格好いいと思わないとやっていけなかった。こんな飛べもしない羽、邪魔以外の何物でもない。

 ああ、これで飛べたなら、もしこの翼で飛べたなら、今すぐお前のところに飛んでってやるのになぁ、なあヴェスト。

 それでも、夢は良い夢で、背中から覆いかぶさった弟が、俺の今の名前を呼びながら、必死で触ってくれた、撫でてくれた、キスしてくれた。
 外見だけ天使の俺と違って、中身を本当の天使にされてしまった弟は、きっとどこかに飛んで行ってしまったに違いない。だってこんな壁に囲まれた、がれきばかりのおんぼろな街、見捨ててしまっただろう。あいつは、きれい好きな奴だったから。

 ほんの少し湧いた涙の冷えで目を覚ませば、そこはいつものトレーラーで、そろそろ夜の公演の準備を始めなきゃいけない時間だった。

「げぇっ、今更夢精かよ……。まあ、最近ご無沙汰だもんな」

 取りあえず、ベッドに落ちてた下着に取り換えた。

 空中ブランコ乗りとしてここに拾ってもらった俺は、なかなか格好よく働いていると思う。我ながら適職だし、この翼も評判がいい。

「ああ、やばい。支度しないと」

 立ち上がろうとして腰から落ちた。何だこれ、身体に力が入らない。まるで、これって昔、最初の頃に二人で過ごした朝みたいじゃねーか。

 鏡を見ると、翼の形が変わっていた。一部が毟られ、ひりひりした感触が、見ていることが事実だと伝えていた。

 俺はベッドに落ちていた仕事用の口紅を取り、自分の唇に塗りつけた。
 そして、そのまま目を閉じた。
無性にキスがしたくなったのだ。

 もちろん、目の間に浮かべるのは、一人しかいない。今触れているかのように錯覚することだって可能だ。

 いつか、本当のキスができたらと、そういう永遠の誓いならいくらでもしてやっていいと願いながら。


 どこかで練習用のラッパが鳴った。
 さて、そろそろ本格的に支度しないとやばい。

 俺は、いつかフランスがやっていたみたいな投げキッスを、愛用のパンダのぬいぐるみに向かって投げた。


「どうやら俺は魔法のキスで呪いが解けるお姫様じゃねーみたいだから、そのうち俺がグリムの王子様のように格好よく助けに行ってやるぜ、ヴェスト」


 特に現状は変わってるわけじゃないけれど、何だか今日は、上手く飛べそうな気がした。
 だって、今も羽がほんのり温かい。まるで、誰かに撫でられているみたいだ。

 トレーラーの外に出ると、戦勝記念塔の黄金の女神像がウィンクしているように見えた。ははっ、羽もついているし、天使が街を見ているみてぇだ。






Fin


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