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Pannotia

ヘタリア好きが懲りずに作ったブログ。元Pangea。今回も超大陸から名前をいただきました。 CPは独普・米英米・独伊独・西ロマ・典芬・海拉・英日などなど。NLは何でも。にょたも大好き。史実ネタ時事ネタねつ造たくさん。一部R18あります。 その他作品として、デュラララ!!(NL中心)とサマウォあり。

   

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真夏の夜の (独普)


一回書きたかった移動式遊園地です!

行ったことなんか全然ないのに何と言うどきわく感がします。






 

 

 肩を組むくらいはできる。戦場ではよくやってたし、そのくらい兄弟でもする。

 でも、それ以上は、もう少し浮かれないと出来やしない。そのくらいが兄弟なのだ。

 

 俺は有給、弟は出張という口実を使って、各国から集まる観光客の隙間を抜けて駐車場に愛車が止まった。カブトムシよりはいくらかスマートになったデザインも、既に10年選手だ。もっとも、物持ちのいい方の弟がしばらく換える景色は見えない。今年のクリスマスプレゼントは、キャンピングカーをねだろうか。

とは言え、半年近く先のことを考えるのは、今はいいだろう。見渡すべきはライン川に投射する蛍光ピンクとグリーンと水色のネオンサインだ。

「うっひゃ~! いつ見てもわくわくするぜ」

 

 点灯された巨大な輪は、ゆっくりと動き続け、落下する滑車の音まで悲鳴に交じって届きそうな絶叫マシン。

 観光客の分の部屋を俺たちが占有してしまうのは、その分、国内総生産が減ってしまうので、弟が昔使っていたボンの家から一時間もいらないことを幸いに、ほんの時速200キロほどでアウトバーンをぶっ飛ばしてもらい――ちなみに、その時間も思いっきり運転手の横顔を見ていたのでまったく飽きなかったのは別の話――辿りついたは、生真面目な街・デュッセルドルフ。人口60万人もいかない街でありながら、弟の懐や体調に敏感に反応してくれちゃう場所である。

 古くは石炭、最近は鉄鋼や機械工業で稼いでいるエコノミックシティーはしかし、年に一度たった9日間だけど浮かれる期間があるのだ。この街で生まれた詩人が、少しばかり情熱的だったのと同じように。

 

「兄さん、そんなに慌てると転ぶぞ。こんな人ごみでは、鞄も忘れてしまうだろうから、これを使えばいい。先日、日本からもらった」

 車のオートロックを電子音でかけた弟が、肩掛けカバンを渡してきた。黄色い柄で小鳥のアップリケ付きの非常に格好良いものだったので、うむ、と鼻を鳴らして受け取ってやった。ちょっと派手かもしれないけど、なぁに今夜はお祭りみたいなもんだ。見つけられないよりは、目立つ方がずっといい。ケセセセセ! いい交流相手と、いい弟がいて俺ってばしあわせものだ!

 

(ママー、あの人、ようちえんバックつかってるよ~)

(しっ、見ちゃいけません!)

 なお、ここは日本人の駐在員がヨーロッパの中でも非常に多い街でもある。どうやら、俺のバッグを羨ましがっているようだが、一般人の異国語では何を言っているのかよくわからなかったので、手を思いっきり振ってやったら、昔、日本の前で肉じゃがを潰して食べたときに見せたのと似た笑顔になった。さすが俺様、何をしても喜ばれるぜ。

 

 ライン川の河原に広がる移動遊園地は、全長約5kmほど。端から端まで往復したら、そこそこビールが美味くなる広さだ。

 この大陸には、遊園地やテーマパークってもんは、そんなに大規模なのは基本的にない。古めのがデンマークところ、当たらしめのがフランスんとこにちょいちょいあるくらいだ。

 俺たちにとって、遊園地っていうのは非日常を楽しむものだから、毎日ある必要はない。その日しかないからこそ全力で遊ぶし有給も消費してやるのだ。これぞ、ゲルマン根性。

 

 家でパンフレットを印刷してきた弟は、ビアホールぐらいしか赤いボールペン丸を付けていない。

「俺様、まずは馬に乗るぜ! 逆立ちしてメリーゴーランドに乗ってやる!」

「はいはい」

「そんでな、そんでな。次にホラーハウスだろ? 今年こそ逆に幽霊を脅かしてやるぜ!」

「ほどほどにな」

「後な! 後な!! フリーフォールだろ? 巨大ブランコだろ? 巨大シーソーに、巨大迷路に、巨大……」

「……何でも大きいってつけばいいもんじゃないだろ。アメリカじゃあるまいし」

「ちぇっちぇっちぇのちぇー! 俺知ってるぜ。お前の座っている椅子の裏側にある隠し引き出しに、俺に似た釣り目だけど巨乳の女優が出てる緊縛物と、アメリカのところのアニメーションの白雪姫とか眠りの森の美女とかのDVDがあるの」

「どっちに対して俺が恥じらいを持つべきか迷うから、指摘するならせめて片方にしてくれないか兄さん」

 

 そうこう言いながら、俺たちはカリーヴルストと、レモネードで割った冷たいビールを買い、屋台ゲームでアルカパのぬいぐるみを景品とした。

 痴話げんかをしながらも、息は合う。兄弟の利点かもしれない。

 

 本格的に酔うのは、もう少し後にしたいので、喉越しのいい爽やかな匂いのする軽いビールは相応しい選択だろう。ヴェストは、帰りの運転があるのでアイスショコラだ。一口後でもらおう。

 

「お前何で自分は飲めないのに、ビアホールにチェック入れてんだよ」

「……兄さんが喜ぶと思って」

「ばーか、お前が飲めないのに楽しめるか。まあ、後で飯だけ食いに行こうぜ。たまには酔わない方が楽しいだろう。俺も、お前も、ガキみたいに、さ」

 

 俺は二杯めのレモネードビールを買わないことにして、代わりにアルコールの入ってない方のアップルサイダーを頼んだ。炭酸やばい。マジうめぇ。

 

 大道芸人の曲芸が、火が舞い、水が踊る中、横目に見ながら通り過ぎ。ピスタチオのアイスクリームを頬張った。「人の好みのブラジャーカップサイズがわかる虫眼鏡」が売られていたので、ふらふらと買おうと思ったら、弟に止められた。

 怪しげな占いの館の前は、見破られたら怖ぇよなぁ、と二人してほふく前進しながら通り過ぎた。何とか無事に通り過ぎた。

 もちろん、メリーゴーランドもホラーハウスも数々の絶叫マシンもどんどん乗ってやった。

 

 テント型のビアホールでは、アルトビールの樽の匂いが溢れてて、男たちが浴びるように飲んでいる通り越して、乾杯で零れたビールを本当に浴びていた。

 俺たちは、混んでいる座席の中、何とか見つけた空席に座り、シュニッツェルや豚肉の煮込みやらを注文し、それに普段はそんな組み合わせにはまずしないが、お祭りみたいなもんだから、とやっぱり理由をつけてケバブとビシソワーズとザッハトルテとグーラッシュとピッツァまで加えて、ビールを飲めない残念さを抑えていたら、この俺様の視界は非常に優秀なので、ちょっとしたことも捕えてしまった。

 

「い、今そこで男同士がチューしてたぜ」

「驚くことじゃないだろう。ケルンから来る観光客だってたくさんいる」

 

 珍しくピッツァをイタリアちゃんみたいに手づかみで食べて、チーズを伸ばしたヴェストが答えた。この街からやっぱり数十キロしか離れていない100万都市は、欧州有数のゲイタウンがある。そりゃ、そんなことぐらい俺だって知ってらい。気にするのはそんなことじゃないだろう。

 

「おいおい、移動遊園地の起源を忘れやがったのか」

「知ってるさ。別名キルメス。教会で行われるミサに行く親たちを待つ間、子どもたちを遊ばせていたのが元だろう。かつて、貴方がそうしたように」

 

 フォークを使わない弟は、いつもより少し子どもくさかった。仕事ではきれいに整えている髪も、夜風と人ごみのせいで、今は少し崩れているのも相まって。

 

「昔のことを根に持つなんてガキくせぇや」

 

 俺は、ベリー味のサイダーに息を吹きかけて、ぶくぶく発泡させた。

 ヴェストは、もくもくと食いながら、やっぱり珍しく口に食べ物が残っているみたいにくぐもって話した。

 

「なら、子どもらしく、俺も乗りたいものをリクエストさせてもらっていいか」

 

 

 

 代金のユーロ札を、係員に何枚か渡した。列に並んではいたが、その間、何となく会話が出来なかった。

待っている間、楽しげに話す他の客とは裏腹に、まるで、本当にこれからミサに行くみたいな感覚だった。

 屋根のない馬車にも似た座席は、だけど色だけは夜の中でも目立つ赤で、躊躇しながらも乗り込んできた弟の重みで、少し傾いた。不安定な座席が、不器用な俺たちらしいと思った。

 俺たちの後からも、家族連れとか二人づれとかが乗り込んできて、やがてスタートの合図が鳴った。

 

「少し怖いな」

「ああ」

 

 ようやくそこで初めて声を出した。どっちが先に話したのか、よく覚えていないけれど。

 観覧車は確かに子どもにとっては怖い乗りものだ。最近は、イギリスの首都のど真ん中にある巨大な観覧車みたく、十分以上かけて一周しかまわらないのも増えているが、俺たちになじみがあるのは、数十秒でぐるぐる回転するこの加速装置だ。

 上がって落ちて、落ちて上がって。

 それは普通の感覚なら、そのこと自体を怖く感じるかもしれない。

悲鳴が聞こえて来る。ほとんどの客は、重力で浮いたり圧迫されたり、飛び出しそうになったりしがみついたり。まさに天国と地獄。

 

ただし、残念ながら俺たちは違う。

俺は遊園地が大好きなくらいは子どもだし、ヴェストだってまだまだ大人げない。でも、こういうものへの怖さを調節できるくらいには歳を取ってしまった。

 

それは、もしかしたら悲しいことかもしれない。

だけど、それを利用するくらいの強かさも同時に得られた。

 

 触れてしまうのは自然だし、誰も見られてないだろうという確信はあった。

 これでもお互い、戦闘機だって乗ったことがある。こういう状況で冷静さを保てる訓練なら嫌と言うほど積んできた。

 

 弟も髪だけを乱しながら、乱れない目で見ていた。

 

 俺たちは手を重ねた。顔も重ねた。

 

雲に光が反射して、例え夜でも、それはそれは明るかった。誰もいない森の中でなら屋外でキスしたことはあるけど、こんな明るいところでは、たくさんの人がいるところでは、初めてだった。

 

 俺は、その夜の花火を音でしか覚えていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いいこにしてたか ヴェスト

 

 にいさん クーヘンをもらったぞ

 

 そうかそうか 帰ってから食おうな

 

 いいにおいがする

 

 今日の説法は香油を使ってたからな

 

 おれもはやくなかにはいりたい

 

 そのうちな そのうち

 

 

 

 

 

 帰りも時速200キロで走る愛車の助手席で、俺は小さなヴェストが、いつか本当の教会で誓えるだろうかと聞いてきたから、やっぱりそのうちな、そのうちと答えた。

 

 酒精なんてほとんど入っていないのに、キス一つで酔ってしまったなんて、俺もまだまだ子どもだなと思ったのは、厳めしい運転手の手前、黙っておくことにした。

 

 アウトバーンの街灯も、少しばかり橙が強く、ネオンみたいだった。

 

 ボンに着いたら、ヴェストが数十年一人でくらしていたボンの家に着いたら、俺たちはようやくいつもどおりに酒を飲んで、いつもどおりに二人きりになって、いつもどおりに少しばかりいやらしいことをして、いつもどおりの朝を迎えることになる。

 

 だから、一年に一回くらいは、こんな風に大胆になっていいと、そう思う。

 俺たちは、分別を付けるなんて無理だってことを知っているくらいには歳を取ってしまっているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

fin

 

 


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