キスもないけど、微エロ。
にょ独は、むっつりだと思います。
テントの入口は閉め切っている。
照り返しは直接入らなくても、風の通らないテントは熱気がこもった。外は、蒸気も吸わないほど乾いているのに、ここはどうだろう。それとも、こんなに汗をかいてしまわないかと気になるのは自分だけだろうか、とドイツは思った。
巻尺をゆるゆる手元に近づけたイタリアは、今度はドイツの左肩から右肩へ当て直す。目盛りをつけただけの羊皮紙のひやりとした感触に、やもすると声が出そうになった。そんなところ、普段は触られない。
軍服は本来オーダーメイドで作るものではあるのだが、自分はほぼ平均的なドイツ人女性のスタイルだからと既製品にしてしまったのが、こんなことをしている顛末の原因でもある。戦場で擦れて胸が痛くなった。じんじんする箇所に手のひらを当てて、うつむいていたところを、少し背の低いイタリアと目が合ってしまったのだ。
「どうしたの、ドイツ。胸、痛いの」
「さ、触るなっ!」
「怪我したなら治療しないと、あっ! 衛生兵さ~」
腕で後ろから首ごと黙らせた。が、その刺激でまた痛みが強くなり、やっぱり声が出てしまった。そこで、ようやく真実に気づいたらしいイタリアは、俺がいいもの作ってあげるよと笑顔になった。
別にイタリアは、何一つ変な事はしていない。極めて真面目に、びっくりするぐらい丁寧に細かく巻尺を当てているだけだ。
「はーい、ぐるって回ってね~」
一応、透けないタンクトップは身に付けているので、見えてはいないが、突起が浮き出ているところは立体的に確認可能な状態だ。まあ、イタリアはこのタンクトップとショーツしか身に付けていない俺の寝床に堂々と全裸で入ってくるような男なので、気にしない奴なんだろう。いくら自分たちは国で、通常の一般人のような恋愛や結婚を行わない関係とは言え、女好きのこの男には自分は眼中にないのだろうと思われて、少しは傷つく。言っておくがほんの少しだ。多分、自分が処女だから余計に被害妄想的に思ってしまうのかもしれない。参った。
電気を消していて良かった。意識してしまうあまり、きっと耳まで真っ赤だ。
素肌に触れるのは、無機質な計量道具だけ。だけど、その手の先が他人だと思うとひどく戸惑う。不可思議な動きをするからか、それとも自分を知られてしまうことに恐れがあるのか。
「ドイツはきれいな身体だね」
指も触れられていないのに、全身を確かめられている事実に声を殺すのが難儀だった。首元にキスされて、背中に手首を回されて、腰を交わして、足を並べて。過去とも現在とも合致しないイメージが自分の中から浮き上がってくる。
布を簡単に調達できる場所ではない。
イタリアが一番気に入っていたであろう白いシャツで作られた胸当ては、吸いつくように自分の胸に収まった。レースはさすがに作れなくとも、リボンで縁取られた枠が中央で蝶々の形で結ばれていた。靴紐が結べないのに、どうしてこれは作れるのだか、とても不思議だった。
涼しいのに暖かい、やわらかいのに、どこかしっくりする。疲労の蓄積スピードも遅くなった。
だけど、ひどく落ち着かなくて、やっぱり胸がちりちりした。
常に胸にイタリアの腕がまわっている気がして。そんなことはしたことがないのだけれど。
それでも、自分の身体を調べていたあの真剣な表情で、イタリアは女を抱くのかもしれないと、彼がたくさん触れた布を脱ぎ着するたびに思った。
いやらしいことを考えてしまったとすぐ後悔するドイツにとって、それはちょっとした艶めいた慰めだったのは言うまでもない。
fin
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